【産業機械・タイヤ業界の方向け 連載:製造DXー成功事例の舞台裏】Part.3 製造DXの目的をどこに置くか?②品質について

加速する製造現場のデジタル化の最前線で、変革者である企業のリーダーや製造現場の方々と、歩みを共にする弊社のメンバーだからこそ知っている、変革の舞台裏、成功事例集の行間に隠されたストーリーを垣間見る本連載。第三回目も前回に引き続き、製造DXの”目的”についてのお話です。今回は”QDC”のうち”Q”、つまり品質について、あたらしいビジネスチャンスを掴んだり、市場のゲームチェンジを仕掛けたりするために、今必要なことをお話させていただきます。なお、第一回目、二回目がまだ、という方は下記もご覧になってみてください。

 

世界最高品質 日本に迫りくる、世界の品質

「エアコンや電子レンジなど、店舗の電化製品は日本のメーカーのものしか使わない」
今から15年ほど前に、筆者が上海に住んでいた頃、上海の繁華街を中心にチェーン展開する、あるチャイニーズレストランのオーナー社長が言っていたことです。その頃すでに、中国は「(21世紀の)世界の工場」と言われるようになっていましたが、筆者の知人の上海人は皆、「中国製のものは壊れやすい。値段は高くても、長く使うものはなるべく日本製がいい」、「“質”の高い日本製のものを持っていること自体がステータスだ」、そう言っていました。当時の日本の製造業側にも、中国や世界の新興国が圧倒的な生産量や価格を武器にどれだけ市場を広げようと、「日本にはJAPAN QUALITYというブランドがあり、そして世界最高の品質を作ることができる強い工場がある」、そんなプライドがあったのではないでしょうか。

 

日本の品質は世界一。今でもそれを否定する人は、国内外を問わず、あまりいないのではないかと思います。

一方昨今ではMade in CHINAやMade in VIETNAMの製品が壊れやすいというイメージは薄れ、抵抗なく購入している方も多いのではないでしょうか。

 

製品の品質さえ良ければ、問題ないのか?

ある産業機械の部品サプライヤーで知った話です。仮にA社としましょう。A社は、Tier1(一次請け)の組み立て部品のサプライヤーにパーツを納めるTier2(二次請け)のサプライヤーでしたが、サプライチェーンの中でより優位なポジションを築くためのゲームチェンジを仕掛けていました。営業力の高い人材をヘッドハンティングし、海外の完成品メーカーに直接営業活動を行い、ついにはTier1の立場として、従来のビジネスよりも部品点数の多い組み立て部品の引き合いを受けられるようにまで力をつけていました。そんな矢先に、完成品メーカーから受けた監査を機に、A社は一時足踏みをする羽目になったというのです。

 

その監査での完成品メーカーからA社が受けた指摘はこうでした。「もし大幅な増産をしても、今の仕組みはきちんと機能しますか?」

 

A社は業界でも有数の優良企業であり、その高品質には定評があります。長年に渡り運用し続けてきた品質保証の仕組みがあり、不具合品は流通させないようにしっかりと歯止めがかかりますし、万一出荷されてしまっても、きちんと追跡して調査できる体制を構築していました。ではなぜこのような指摘が入ったのでしょうか?

 

品質や仕組みだけでなく、システムを問われることもある

「私たちはビジネスを拡大したいが、今の御社の仕組みでついて来ることができますか?」 これがこの監査における、完成品メーカーのメッセージです。

 

設計変更の図面と生産指示をそれぞれ別のシステムで作り、人間系の作業(伝言やすり合わせ、オフラインでのデータ複製や編集など)で伝達する。現場では、部材の入庫から出荷までのモノの動きや、各工程の生産実績、作業者や作業時間といった情報は、手書きの台帳で管理している。各種生産パラメーターなどの情報は、機械から紙で出力されたものを、手作業で所定のフォーマットにまとめ直す。そして、万一品質問題が起こった際は、膨大な紙やExcel、異なるシステムの中から、人手で不具合品を追いかける。A社は長年その仕組みで回してきたので、特に問題意識も持っていませんでした。しかし仕組みそのものには隙がなくても、生産量が増えたら仕組みそが追い付かなくなるのではないか?同じビジネスをベトナムやタイなどにも展開しようと思ったら、日本の工場と同じようにはいかないのではないか?そういったことを、完成品メーカーに指摘されて「初めて気づいた」そうです。

 

仕組みを変革し、成長戦略を推進する、その手段がDXで、ツールとなるのがITシステム

サプライチェーンのより優位なポジションで、より付加価値の高い製品を、世界の工場で量産する。そのためには、たとえ生産量が増えたとしても、日本の生産現場にいるような熟練の目利きがいない工場でも再現できるようにしなければならない。データをもとに、工程や製造方法、設備の管理を形式知化し、形式知となった教育を施し、迅速に追跡できる仕組み(トレーサビリティ)へと見直す必要がある。その手段となるのがDXなのではないか。このように考えた結果、A社のDXが始まりました。

 

それまでA社では、生産ラインの機械1台につき日に10枚ほど、紙やPDFで各種生産パラメーターや加工・測定に関する情報を出力していました。工場内に数十台の機械があるので、数百枚の紙の情報を毎日手作業でまとめ直す作業が発生し、万一品質問題が起こった際は、その膨大な紙の資料を人手で追いかけていたのです。その仕組みのデジタル化に着手しました。すなわちMESシステム(製造実行システム)の導入です。

 

MESシステムでは、情報は自動的にシステムに蓄積されます。部品番号とシリアルナンバーを入力したら、システムがデータベース上の記録を自動で調査し、30秒も経たずに問題のある製品群を抽出することが可能です。またモノの動きや作業者の情報、作業時間なども、紙ではなくシステムに打ち込むため、蓄積されたデータを使って、不良が発生しやすい製品群にあらかじめ目星をつけることも可能となります。MESシステムとは、一言でいえば「製造を実行し、実行の記録を取るシステム」なのです。

 

そして、図面をつくる設計部門と、製造に必要な指示を作る生産技術部門が共通の基盤で連携できるよう、PLM(製品ライフサイクル管理)を導入し、このPLMと先述のMESシステムを連携しました。そうすることで、どのデザインレビュー段階で問題を見逃したのか、どの工法や手順で作られた製品に問題があるのか、それにより作られた製品は今、どこにどのくらいあるのか・・・、そういうことを、連続性のあるデジタルな情報として管理し、利用できるようにしました。デジタル化によって現場の動き方が一新された、まさにDX(デジタルとトランスフォーメーション)の実現です。

 

こうしたDXの推進の甲斐あって、現在A社では、新たな取引先である完成品メーカーが求めるトレーサビリティの要件を見事に満たし、アセンブリーパーツをTier1の立場で直接メーカーに納品するビジネスを獲得し、順調にビジネスを拡大しているそうです。従来の部品ビジネスよりも何倍も部品点数の多いアセンブリーパーツに、自社が長年の歴史の中で培った業界トップクラスの技術とその付加価値を存分に搭載して・・・。

 

システムを連携することで見えてくる、これからのトレーサビリティ

設計の履歴を管理する仕組みと、生産技術が製造の現場に渡した生産指示の履歴を管理する仕組み、そして現場が指示通り作ったかという記録を取り、管理する仕組み。今までは、それぞれの仕組みを運用する部署が、各自の業務にあったシステムを別々に買ったり作りこんだりしていました。その結果、仕組みと仕組みの間の情報連携は、人間系の作業でなんとかするというのが当たり前でした。仕組みと仕組みのつなぎ目になるようなソリューション自体、世の中にはなかったので、各部門が使うシステムを連携させようという考えを持つ方も少なかったのではないでしょうか?

 

しかし、ここ2~3年で、この3つの仕組みを「連携して使いたい」、「一気通貫となるようなデジタルの仕組みを作りたい」という要望が急激に増えています。弊社においても、A社をはじめ、業界問わず様々なお客様からの相談が寄せられます。製造への指示を作るシステムと、製造を実行してフィードバックを取るシステム、それらを連携させ、一気通貫となるようなデジタルの仕組みをもって人間系の作業を代替し、世界中どこの工場でも迅速にトレーサビリティを担保できる。そういった姿を目指すDXが、今後のトレンドになるかもしれません。

 

さて、前回、今回と2回に渡り、製造DXを推進するために重要な目的設定について、お話をさせていただきました。次回も引き続き、目的の設定について、今度は”QCD”の”D”、つまり納期についてお話をできればと思います。

 

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関連リンク

【連載:製造DXー成功事例の舞台裏】Part.1 製造DXにおける、実績データの重要性

【連載:製造DXー成功事例の舞台裏】Part.2 製造DXの目的をどこに置くか?①コストについて

谷澤 修太朗 (Shutaro TANIZAWA)

谷澤 修太朗 (Shutaro TANIZAWA)

ビジネス・ディベロッパー。変革の提案をおこなう営業担当者や、ビジネスの上流から共に変革を描くコンサルタント、現場の仕事とシステムをいかに良くするかに日々奔走する技術のメンバーや、成功した事例を世に知らせようとするマーケティング担当者など。そんな彼ら、彼女らが知る、変革の舞台裏、成功事例の行間に隠されたストーリーが、今まさに変革を進めようとする方々の一助となればと思い、それらの一部を紹介させていただきます。
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