電子機器部品のより良いバッテリー開発のために

バッテリーの寿命、耐久性や安全性を向上させるためにシミュレーションがどのように役立つかをご紹介します。

 

シミュレーションがバッテリーの寿命、耐久性、安全性の向上に貢献する理由

スマートフォンやノートパソコン、スマートホーム機器、ウェアラブル製品など、二次電池は電子機器やシステムのいたるところで使用されています。

 

バッテリーの性能は、電子機器市場において重要な差別化要因の一つとなっています。お客様は長時間駆動可能な携帯電話やパソコンを求める一方で、機器の小型化・軽量化も求めています。このように相反する要求を満たすために、バッテリーの技術者は、バッテリー容量と性能を最大化するための最良なトレードオフを見出す必要があります。

電気自動車やスマートグリッドの台頭は、原材料の需要がかつてないほど高まっていることを意味します。またコバルトのような一部の原材料の供給は、サプライチェーンの柔軟性と持続可能性に関して慎重に分析・管理する必要があります。

電子機器は連続的に消耗されることや、不適切に扱われることがあります。例えば携帯電話は、落下したり、揺すったり、曲がったり、浸水したり、高温・低温環境で使用されたりすることがありますが、こういった取扱いによりバッテリーの寿命と安全性にダメージを与える可能性があります。リチウムイオンバッテリーのパックには、不安定な化学物質に高密度のエネルギーを詰め込んでいます。慎重に製造・管理しない場合、発火や爆発を起こす可能性があります。

本記事では、シミュレーションが電子機器用バッテリーの設計にどのように役立っているかを紹介します。

 

より良いバッテリーを目指して

リチウムイオンバッテリーが初めて実用化されたのは1991年であり、現時点で30年以上前の技術となりますが、産業としてはまだ成熟しているとは言えません。今後リチウムイオンバッテリーを進化させるには、セル設計の刷新や新しい電解質などの革新的な技術による大幅な性能向上か、全く新しいタイプの化学電池の実用化が必要です。

バッテリー開発における主な課題には、以下のようなものがあります。

 

  • より制御しやすく、より安定した新しい電解質を開発すること。ここには固体電池も含まれます
  • バッテリーの正極材料として広く使われているコバルトは、その多くがコンゴ民主共和国で採掘されていますが、紛争鉱物に対する規制はますます厳しくなっており、これを別の原材料で代替することに関心が高まっています
  • モバイル機器では急速充電が標準になりつつありますが、バッテリーにダメージを与えて寿命を縮めてしまう可能性があるため、性能と寿命を維持しつつ、急速充電が可能なバッテリーが求められています
  • 消費者の意識、電子廃棄物の規制、原材料の希少性から、スラリーの混合方法やスクラップのリサイクルなど、生産プロセスの最適化の必要性が高まっています
  • 固体電解質界面(SEI)は電池の初回充電時に形成されますが、その後の電池の性能に影響を及ぼし続けます。初回の充電サイクルを最適化することでSEIを改善することが求められています
  • 電池メーカーは需要に応えるために大規模なスケールアップが必要であり、有望な技術を実証・商業化することが必要です。生産の安定性と歩留まりに関する疑問点を解決する必要があります

 

新しいバッテリー技術の開発サイクルはコンセプトから製品化まで 10 年かかることもありますが、より優れたバッテリーに対するあらゆる産業分野からの要求が高まっているため、市場投入までの時間を短縮することが強く求められています。シミュレーションは、実験や試作品を作らずに新しいアイデアを仮想的にテストして最適化することができるため、バッテリー開発を大幅に加速させられる可能性を秘めています。

 

バッテリーシミュレーション

バッテリーの挙動には複数の物理領域が絡んでいます。例えば、電解質を理解するための材料科学と電気化学、電極と化学反応、電解質の流れを理解するための流体力学、電流と電圧を理解するための電磁気学、加熱と冷却のための伝熱工学、強度と完全性のための構造力学、そして制御システムを開発するための制御工学があります。

 

 

当社の「ハイ・パフォーマンス・バッテリー」ソリューションにより、企業は効率の良い電池材料設計に基づいたセルやパックの性能設計を行い、デバイスの性能を向上させることができます。

一般的なバッテリーの場合、以下のようなワークフローとなります。

 

  • バッテリーセルの構成材料の電気化学的特性を評価します。ダッソー・システムズ製品ではBIOVIA Materials Studioで解析が可能で、イオン拡散やOCPなどの基本的な電気化学情報を得ることができます
  • バッテリーセル内部のコア構造の3Dモデルを作成します。ミクロ構造のスキャン画像があれば、ミクロ構造の詳細もモデルに含めることが可能です
  • バッテリーセルの挙動を確認します。電極の液相と固相の挙動を電気化学的に予測する「ニューマンモデル」により、リチウムイオンバッテリー内部の現象を理解します。3次元モデルを使うことでバッテリーの挙動をより正確に理解し、任意の時点における濃度や温度の分布を予測します
  • 内部ショート、熱暴走、高荷重負荷などの安全性評価に関するシナリオや、製造上の制約や経年劣化の影響を調査します
  • セルをバッテリーモジュールやパックに詰め込んだ状態を考えます。Swellingによる膨張収縮を予測したり、電池の安全性を調査したりします
  • 落下、曲げ、浸水、振動、過熱などの安全性・耐久性に関する性能を、物理的なプロトタイプを必要とせずに評価できます。また、あらかじめ用意されたテンプレートを活用することでシミュレーションの大衆化を図り、解析専任者でなくても解析による性能評価を実施することが可能になります
  • こういったシミュレーションに関する性能評価を設計プロセスに組み込むことで、バッテリーモジュールの設計を最適化し、軽量化と冷却性を向上させることができます
  • シミュレーションに関するデータをCATIA Dymolaと共有することで、制御システムなどの全体のシステムシミュレーションを実行できます
強度・剛性、耐久性 – 3点曲げ荷重シミュレーション

 

多くの場合、このワークフローは多部門にまたがり、協力会社にまで及びます。電池に作用する力と温度はその周囲の部品によって決定されるため、バッテリーセルメーカーと電子機器メーカーの両方が協力して、バッテリーの品質を確保する役割を担うことになります。

 

シミュレーションを統合することで競争力を高める

電子機器分野の高まる需要に対応するため、バッテリー技術を理解し、設計を最適化する競争が行われています。シミュレーションはバッテリーの設計に携わるエンジニアに競争力を与えることができます。例えば、SIMULIA の 3D ニューマンモデルでは、他のツールではモデル化できない特性を評価することができます。

 

バッテリーの設計を最適化し、重量、エネルギー密度、熱性能などのKPI間の最良なトレードオフを見出すことができます。また、幅広いシナリオで安全性を評価し、試作品を作る前から膨張や劣化の影響を確認することができます。シミュレーションによってリスクを低減し、コストと市場投入までの時間を大幅に削減することができます。

エンジニアは、3DEXPERIENCEプラットフォーム上でバッテリーの設計と性能評価を協調して作業することができます。モデリングとシミュレーションの緊密な統合、および性能評価項目のテンプレートにより、シミュレーションの大衆化が進み、専門家でなくても共同作業や日常業務で使用できるようになりました。

 

3DEXPERIENCEプラットフォームは、BIOVIA、SIMULIA、CATIAの各ソリューションを共通の環境に統合し、設計や解析を協調して実施可能にするものです。一つのモデルで実際のバッテリーを再現し、同じソースデータを使用するバーチャルツイン・アプローチにより、マルチフィジックスな調査および研究を同じモデルで行うことができます。ダッソー・システムズの幅広い製品群は、バッテリー性能の様々な側面を理解し、最適な設計を開発するために必要なエンドツーエンド・ツールを提供します。

 

ダッソー・システムズは、2023年3月15日(水)~17日(金)まで東京ビッグサイトで開催される二次電池展に出展します。二次電池の研究開発、製造に必要なあらゆる技術、部品・材料、装置が出展し、世界中から人と情報の『リアル』が集まる展示会です。ぜひ、お立ち寄りください。

ダッソー・ システムズ

ダッソー・ システムズ

3Dソフトウェア市場におけるパイオニアであり、3DとPLMソリューションのワールド・リーダーであるDassault Systèmes(仏)の日本法人です。
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