【カスタマイズはもう古い? モジュラー化が個別受注生産の新たなトレンドに】モジュールの組み合わせを駆使し、部品の種類を減らしながら従来よりも低コストで多くのラインアップを実現

生産財メーカーは顧客の特定のニーズや要件を満たすため、機器のカスタマイズを求める一方で、価格の圧縮を要求します。個別受注生産方式による複雑な工程や高額な割増料金を回避しつつ、マス・マーケット向けの標準製品をより短期間で効率的にカスタマイズできる新たな生産方式として、モジュラー型製品アーキテクチャが今注目を集めています。

 

米国ミネソタ州に拠点を置く機械試験装置メーカーのMTS Systems Corporation社では、かつて150種類の油圧サーボ式ロードフレームを製造するのに11,000点もの固有部品を必要としていました。しかし現在では部品点数を90%減らし、わずか800点の固有部品で10万種類以上の製品を製造しています。

 

ヘルシンキに本社を構えるWärtsilä社は以前、顧客向けに新しい舶用中速エンジンを一基開発するのに10年を費やしていました。7,000点近くあった固有部品を4,000点未満に減らして以降、同社はその半分の期間と半分のコストで、顧客の要件に応じて使用燃料を変更できるエンジン・シリーズを開発しました。
MTS Systems社やWärtsilä社のように、コストや生産時間を増やすことなく、また品質を落とすことなくカスタム製品に関する顧客の様々な要求を満たす術を手に入れた産業機器メーカーが増えています。その秘密はモジュラー化にあります。

 

最小限の部品で多品種生産を実現

モジュラー化は、スウェーデンのセーデルテリエに拠点を置くトラックおよびバスメーカーのスカニアが1960年代に確立した生産方式です。複雑な製品をいくつかの標準化されたコンポーネントに分割し、コンポーネントを自在に組み合わせることで、カスタマイズに伴う多額のコストを負うことなく、幅広い製品ラインナップを短期間で生み出すことを可能にします。

 

アーンスト・アンド・ヤングのAdvisory Practice部門でシニアコンサルタントを務めるJana Golfmann氏は、モジュラー化について、こう指摘します。「限られた数の共通モジュールから複数の製品ファミリーを作り出すことができ、内部構造の複雑化も現実的なレベルに留めることができます。モジュラー化は、産業機器メーカーが多様な製品ラインのアセンブリを開発し、スケールメリットを生かしてマスカスタマイゼーションを実現するための、最も効率的な方法です」

 

モジュラー化は数々のメリットをもたらします。

企業顧客に対してモジュラー化コンセプトの作成を支援するSPJ Consulting社のマネージングディレクター、Sam Burman氏はこう話します。「モジュラー化を進めることでメーカーは部品点数を50~60%減らし、それにより材料費を10~15%削減、組立・製造に伴う時間を25~35%以上短縮できます。製品そのものを見直せば、さらなる削減が可能でしょう」

 

「以前勤めていたあるトラック会社では、部品点数を45,000点から15,000点に減らしながらも、顧客一社に対して数十億もの製品バリエーションを選択肢として提示することが可能になりました。部品点数を減らし、製造時間を短縮することができれば、最終的に収益も増えます」

 

軍事・航空宇宙・自動車産業分野向けの環境試験装置を製造する中国のChongqing Yinhe Experimental Equipment Company(CQYH)社も、モジュラー化の力を示す好例です。CQYH社はモジュラー型アーキテクチャソリューションに顧客要件を直接入力することで、顧客が短期間で3Dモデルを承認できるようにし、物理的なプロトタイプを不要にしています。

 

 “「モジュラー化は、産業機器メーカーがスケールメリットを生かして多様な製品ラインのアセンブリを開発し、マスカスタマイゼーションを実現する最も効率的な方法です」”

JANA GOLFMANN氏
ERNST & YOUNG社ADVISORY PRACTICE部門シニアコンサルタント

 

CQYH社のCEO、Zhixian Zhang氏はこう話します。「当社のモジュラー型アーキテクチャソリューションにより、納期短縮を実現し、設計ミスを半分に減らしました。また、研究開発活動の統制も向上し、新たに開発する部品の数は減少しているものの、受注件数は増え続けています。売上高は4,000万人民元(6億6千万円)から1億5,000万~1億8,000万人民元(約25億~30億円)に増えました。

 

マスカスタマイゼーションの低価格化

モジュラー化はメーカーにとって、通常の在庫を使用して、完全に組み立てられた製品を設計し、ストックして販売する従来の製品開発手法およびビジネスプロセスからの構造的転換を意味します。モジュラー生産方式では従来の方式とは逆のアプローチをとり、大量生産されたモジュール群の中から選択したコンポーネントを組み立てることで、顧客の特定の注文に対応します。

 

イノベーションコンサルティングを専門とするKalypso社のシニアマネージャーを務めるJordan Reynolds氏はこう語ります。「産業機器メーカーはモジュラー化を利用することで、製品コンポーネント/モジュールの定義を、これらをいかに組み立てるかを規定したルールの定義から切り離して考えることができます。そのため、従来は個別受注生産プロセスにより開発されていた高度にカスタマイズされた産業製品を、大量生産と同様の効率性をもって短納期・低価格で提供し、高い利益をもたらすことができるのです」

 

また、既存のモジュールを組み立てて新しい製品をつくることで、メーカーは個々のモジュールに変更を加えるたびに主要コンポーネントの設計を再開発、再試験、再検証する必要がなくなります。

 

製造業を対象とする独立系調査会社、Tech-Clarity社の社長Jim Brown氏はこう話します。「モジュラー化には先行投資と努力が求められますが、エンジニアは新しい注文を受けるたびに素早くカスタム製品を組み立てられるため、大きな利益を得られます。当社が行った調査では、産業機器のトップメーカーは業績の劣る競合他社に比べてモジュラー設計手法を取り入れている確率が49%高いことが明らかになっています。低価格の見積もりを短期間で出せるので、契約が取れるのです」。

 

モジュラー方式への移行

モジュラー化は単に既存のモジュールやプロセスを標準化するだけではなく、それよりもはるかに多くの作業が求められると、SJP Consulting社のBurman氏は述べています。長期的な成功を収めるためには、メーカーは顧客のニーズを聞き取った上で製品コンポーネント間のインターフェースを設計し直し、現実的な方法で様々な形で組み合わせられるようにする必要があります。

 

Burman氏はこう指摘します。「インターフェースは変わらないため、メーカーは個々のコンポーネントを組み込むか、入れ替えるか、取り除くことで、関連するコンポーネントは変えることなく、全く新しい製品をつくり出すことができます。次に、ラインナップに含まれる全製品の少なくとも開発前期の段階にて、常に並行してモジュラー化を進め、個々の製品の詳細を決めるのはその後です。これは非常に骨の折れる作業ですが、個々の製品を別々にモジュラー化すれば、結局その製品でしか使えないモジュールとなり意味をなさなくなります」

 

モジュラー型製品アーキテクチャが成功するためには、強固な製品ライフサイクル管理(PLM)システムの支援が必要です。

 

Golfmann氏はこう述べています。「標準化された、再利用可能なコンポーネントから製品を構成し、製品ライフサイクル全体で部材マスターを統合する上でPLMプラットフォームは不可欠です。また、モジュラー化の多様な要件を管理し、各コンポーネントがうまく組み合わさるようにするには、製品アーキテクトも重要です」

 

PLMシステムは3D設計ソフトや3Dビジュアライゼーションソフトと組み合わせると特に効果的だとBurman氏は述べます。「3Dビジュアライゼーションの技術を用いることで、メーカーは顧客に様々な選択肢を複数の図面や物理的なプロトタイプではなく、デジタルモックアップの形で示すことができます」

 

 

一方、クラウド、モノのインターネット(IoT)、特殊な形態の人工知能(AI)である機械学習を用いることで、メーカーは特定のモジュールや製品構成の需要をより正確に予測することができます。

 

「IoTソリューションはスマートプロダクトから集めたデータを分析し、顧客が製品をどのように使用しているのかを理解する助けになります。一方、機械学習のアルゴリズムは過去の販売データをもとに顧客の需要を予測することができます」とReynolds氏は説明します。「このアルゴリズムは互換性のある製品構成を生み出す要因は何かを学習し、モジュール組立の選択肢に関するルールを設定することもできます。専門家に依存する現行のシステムに比べ、信頼性は格段に上です」

 

導入の推進

モジュラー化に向けた取り組みを開始する前に、まずは経営陣が率先して運営方法の変革に取り組み、従業員の支持を得ることが望ましいと専門家は指摘します。

 

ストックホルムに拠点を置くコンサルティング会社で、企業のモジュラー化導入を支援するModular Management社のパートナー兼取締役、Mart Tiismann氏はこう述べます。「完全なモジュラー化は非常に大掛かりな変化を伴い、働き方が根本的に変わるため、バリューチェーン全体を構成する各部門の全面的な協力が必要です。早い段階で確実に成果が得られ、徐々に気運が高まり理解が広がるようロードマップを作成しなくてはなりません。また、ガバナンスとサポートのツールを刷新する必要があります。これが最も重要な点です」

 

モジュラー化の社外専門家に支援を求めることも有益である場合がある、とCQYH社のZhang氏は言います。「広い視野で考え、一歩ずつ実行していくことが重要です。まずはモジュラー化のコンサルタントチームに製品アーキテクチャの再構築を依頼し、次に戦略の実行を支援するために、ITプラットフォームではなくビジネスプラットフォームを選びましょう」

 

モジュラー化する未来

今後ますます顧客が高度にパーソナライズされた製品を低価格かつ短い納期で要求するようになれば、産業機器メーカーは競争力を維持するために現行の大量生産プロセスを見直さざるを得なくなります。

 

Modular Management社のTiismann氏はこう語ります。「以前はモジュラー化のメリットを頻繁に説明して回っていました。しかしインダストリー4.0とデジタル化の推進により、今やほぼ全ての産業機器メーカーが製品構成を改善する必要性を認識していますが、モジュラー化に対応するために情報を構築することの影響についてはまだ十分に理解されていません。そのため、モジュラー生産方式による産業機器の製造アプローチをすでに導入している企業や、導入に向けた取り組みを開始している企業は、今後数年間にわたり競争上の優位性が得られるでしょう」◆

著者: Rebecca Gibson

ダッソー・ システムズ

ダッソー・ システムズ

3Dソフトウェア市場におけるパイオニアであり、3DとPLMソリューションのワールド・リーダーであるダッソー・システムズ(仏)の日本法人です。
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