「ストーリーの経済」 ダッソー・システムズ取締役会副会長・CEO ベルナール・シャーレス

日刊工業新聞 2019年3月11日掲載

 

経験つなぎビジネス創造

 

【マーケは消費者の手に】

 

想像力を駆使して市場戦略を立案する人々、インダストリー・ルネサンスという新潮流を求める人々にとってエクスペリエンス・エコノミー(経験経済)は恩恵である。製品経済について、いま一度思い起こしてほしい。スケールメリット、巨大な店舗や工場、マスメディアがその構成要素である。一方、エクスペリエンス・エコノミーは知識とノウハウを基にし、製品のフロー(流れ)ではなく、データのフローで編成されている。

 

プラットフォームとは本来、人と人、人々とアイデアやデータといった個々の要素をつなぐ。エクスペリエンス・エコノミーとは「点と点をつなぐ」、つまり時間、場所、人々とその行動をつなぐ「ストーリーの経済」である。あらゆるデジタル・プラットフォームはメーカー、個人、組織といったさまざまな単位と、それらを支えるネットワークとの間にストーリーを紡ぐメディアといえる。

 

そこではマーケティングは消費者の手に移行していく。米国のアマゾン、グーグル、中国の百度(バイドゥ)といった企業が提供するスマートスピーカー(AIスピーカー)はやがて新しいチャンネルとなり、そう遠くない未来にオムニチャネルへ進化する。

 

なぜならスマートスピーカーは、製品やサービスを注文するだけでなく、製品やサービスを比較するほか、その中から「おすすめ」を提案してくれる。どの銘柄のヨーグルトを注文するか、どの銀行サービスを使うか、私たち消費者はスマートスピーカーの提案を受けながら日々、選択するようになる。

 

【行動提案、家庭が「工場」】

 

スマートスピーカーを介して消費者をつなぐ「プラットフォーム」は、それらを提供するブランド側から見れば、データのみならず、嗜(し)好や興味のあり方、ライフスタイル、つまりはエクスペリエンスを消費者に提案する売り手となる。こうしてエクスペリエンスを生み出す新たな“工場”が誕生する。この工場の特徴は、生産ラインが製品の生産と“同時に”構築される点にある。

 

近い将来、これらのプラットフォームは人の行動をシミュレーションし、製品やサービスの構想にまで影響を与えるだろう。

 

市場戦略を立案する人々は単に今のマーケティング用に特化したプラットフォームではなく、最も産業に即した、つまり自らのブランドが連なるエコシステム全体の活動を統合できるプラットフォームを求めるべきである。

 

マーケティングにおけるイノベーションの源は、会話の世界と生産の世界とのつながり、バーチャルとリアルの間のつながりに存在している。米ナイキはコネクテッドシューズを製造し、プラットフォームでシューズを変革している。グーグルは車を作り、アップルはヘルスケアサービスを策定している。フェイスブック、ツイッター、インスタグラムには「今すぐ購入」ボタンの広告があり、アマゾンは自社のブランドやリアル店舗を所有している。

 

【自らプラットフォームへ】

 

個々の独立した一時的な変数である現実のデータをビジネスの各段階で引き継ぐこと、新しいエクスペリエンスを創造するデジタルモデルの連続性を保つことこそ価値がある。シンガポールやインドのジャイプールといった都市も同様であり、都市管理やマーケティングのプラットフォームとして3次元(3D)のデジタル都市モデルを構築し、市民とつながり、数々のリアルタイムデータでプラットフォームを充実させている。

 

エクスペリエンス・エコノミーでは都市も企業も、その本来の姿、つまりプラットフォームへと自らを変えられる。そのため当社は、バーチャルとリアルが3Dで交わる拡張された世界に向けたプラットフォーム「3DEXPERIENCE」を生み出した。エクスペリエンスは重なり融合されてストーリーとなる。エクスペリエンスこそ、新時代の書物なのである。

 

<バックナンバー>

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