【 デザイン と シミュレーション を語る】第八回 : CAE を志す人へのメッセージ(1)

5年ほど前になりますが、 CAE 関連の掲示板をふと見る機会があって、「 CAE エンジニアで一生食っていけるか?」というという問い合わせがあったのです。そこに、下記のような要旨の投稿と回答依頼が書かれていました。( CAE は、Computer-Aided Engineeringの略語で、設計のために行うコンピュータ・シミュレーションのことです。)

 

=== 問い合わせ投稿内容 ===

CAE 専任部署(規模小さい)へ異動願いを出す予定

・花形部署から後方支援部署への異動希望につき昇進は遅れる見込み

・それでも CAE がやりたい。やるからには生涯これで食っていく覚悟。→自分の考えは甘いのかと思い、投稿させて頂いた次第です。

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その問い合わせにとても真摯なものを感じ、規模の小さな部署ということで、雰囲気や苦労を想像できることも多々ありましたし、私の経験で役に立つならばと、気持ちを込めて回答を差し上げたいと思ったのです。熱が入りすぎると文章が稚拙になってしまうところは少々ご容赦いただくとして、若干の変更・追加や削除をして転載いたします。

 

=== 以下、レター形式の回答転載です。 ===

XXXX様へ

 

私は曲がりなりにも、シミュレーションやCAEとの付き合いを25年続けてきましたので、若干の見聞と経験を踏まえて、アドバイスを兼ねながら、貴方にエールをお送りたいと思いました。

 

私は、ずーっとベンダー側にいた人間です。ハードとソフト両方です。自分でモノを設計をしたことはありませんし、作ったこともありませんので、そこが一番の弱点だといつも感じています。ですが、ベンダーにいた経験のありがたいところとして、自動車会社ほぼ全社、重工・航空産業、電機・精密産業、材料産業など幅広い企業の、ITCAE 、設計、研究部門の方々とお仕事をし、たくさんの話しを伺う機会がありした。そうしますと、おのずから、共通項が見えてきます。悩みや苦労も、産業や企業に寄らない部分が非常に多いのです。そうした体験を踏まえて言えることを、問い合わせへの回答を兼ねて、 CAE を志す方々全般に向けてのメッセージとして自分でも書いてみようかという想いになったのです。

 

ここでは、あるべき姿を語るとしましょう。結論から言いますと、 CAE 関連分野は十分すぎるほど開拓の余地があり、明るい未来があると、私は考えています。ただし、単にCAEに従事すれば自然に明るい未来に乗っかれるわけではなく、ある意味で”正しい位置取り(ポジショニング)と視点”が必要であるということも、指摘しておきたいのです。こういう場合の定番として、3つ挙げましょう。

 

(1)コアを確保せよ −現物の設計、試作、実験を経験し、専門の CAE 分野を強く意識して、極める

ものを実際に設計し、触る体験が、これからは益々減っていくでしょう。 CAE に従事する人たちにとっては、数少ない貴重な体験になっていくでしょうし、可能な限り、現物と付き合う機会は継続していくべきだと思います。XXXXさんは、すでに経験しておられますね。(私の場合、この(1)ですでに不合格ですので、今でもCAE語るとき常に不安感や後ろめたさに襲われます。)

 

その上で、自分の原点としての、コアになる CAE の専門分野をぶれずに保ち鍛え続けること。さもないと、特徴のないジェネラリストになってしまいます。出身地を意識するということですね。ここを鍛えてくれる先達や仲間、組織はたくさんあると思いますので、私からはこれ以上申し上げることはありません。どんどん深掘りしてがんばってください。

 

(2)横つながりの視点を持ち、第2分野を持つ

ここからが、実は本題としてお伝えしたいことなのです。もし、構造解析が自分の専門領域だとしたら、あなたの隣の席か、部署に、同じ製品を機構解析している人、材料設計している人、落下試験をしている人、制御をやっている人などがいるでしょう。第2分野の意味は、“隣の分野”のどれか一つ選んで、少なくともそちらの専門家と会話ができる程度の、知識を持つということです。

 

 CAE では専門分野が明確に住み分けられていますので、専門家は“閉じる”傾向にあります。しかし、本当にいいものを作るには、異なる専門家同士が良好にコミュニケーションを取る必要があります。お互いの領域を相互に“侵食”し、理解・議論できることが極めて重要なのです。おそらく、大半の CAE に従事している方々は、相互の理解が不足し、“ギャップ“に気づかずに仕事をしてしまうと、どんな悲惨な結果が起こるか、ということを経験をされているはずです。

 

第2分野を意識して持つということは、他分野への“侵食”をしぶしぶではなく、意図的に行うということです。さらに、“侵食”したい分野が見えてくるかもしれません。設計は、本来たくさんの性能領域を検討する「複合領域問題」です。すべての専門領域を理解できるスーパーエンジニアはもちろん無理というもの。しかし、二つ経験するだけでも、十分に複合領域的視点が広がるはずだと思うのです。それにより、技術者としての成長の幅も大きく広がるでしょう。

 

さらに、機械系-電気系-制御系をすべて連携させる1Dシミュレーションの世界のように、世の中の技術は、より複合領域的、エンジニアには複眼的視点が求められていきます。これを経験し、先取りすることで、仕事の世界で一歩抜きんでる方向を自らつかむ機会が増えると思うのです。

 

===続く===

 

SIMULIA 工藤】

 

<バックナンバー>
【デザインとシミュレーションを語る】第一回:イントロダクション
【デザインとシミュレーションを語る】第二回:シミュレーションの分類
【デザインとシミュレーションを語る】第三回:シミュレーションは実験と比べて何がいい?
【デザインとシミュレーションを語る】第四回:シミュレーションは緻密な統合技術
【デザインとシミュレーションを語る】第五回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(1)
【デザインとシミュレーションを語る】第六回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(2)
【デザインとシミュレーションを語る】第七回:3D-CADは何のため?

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤はCAE分野で38年の経験を持つエキスパートとして、CAE開発・販売、HPC活用・マーケティング、最適設計・ロバスト設計市場開拓などを経験し、現在はシミュレーションを活用した設計業務改革コンサルと自身のノウハウ形式知化に取り組んでいます。
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