ヒト臓器のオンデマンド製造が視野に? 3D バイオプリンティング によって開かれる移植と治療の新たな展望

 

バイオプリンティング 3Dプリンタ ダッソーシステムズ
Novogen MMX Bioprinter®は変化に富んださまざまな形式で、構造上正しい、ヒト同様の3D組織を印刷します。
(Image © Organovo Holdings Inc.)

ヒトの臓器を研究室内で作り出す、この切望されている課題に取り組む研究者たちによって、ヒト組織の作成に3Dプリンティングが採用されています。

サンディエゴ市のある研究室では、肝臓組織の小片がヒトの完全な肝臓とまったく同様に、40日を超える期間にわたってタンパク質、酵素、コレステロールを作り出し続けています。しかし、大きさ3mm2、厚さ0.5mmにすぎないこの組織は、ヒトの肝臓に由来するものではありません。特殊な3Dプリンターで「製造された」もので、生体組織工学における一大革命の証拠となっています。

「この肝臓組織は、以前のどの組織モデルよりもずっと完全な肝臓に近い機能を示しており、それが本当に大きな成果となっています」と語るのは、3D バイオプリンティング と呼ばれてきたテクノロジーを事業化するために2008年に設立された企業、OrganovoHoldingsInc.社のCEOであるKeithMurphy氏です。「引き続き研究を進めて、さらに多くのデータを示す必要がありますが、この組織が肝臓のように働いているという事実から、薬剤のテストを開始した際にも、組織が肝臓のように働くであろうと考えるのが自然です。」

イギリス、フランス、ドイツ、日本の研究者たちも、Murphy氏と同様に興奮で震えています。各地に広がる科学者たちは、様々な特殊なコンピュータテクノロジーを導入し、皮膚、膀胱、骨、歯などを含むヒトの器官の製造を完全なものに近づけようとしています。

最初の目標は、年間500億ドル規模の医薬品開発ビジネスにおいて、ヒト組織を置き換えることができる組織を作成することです。ただし最終目標は、完全な器官として機能する肝臓、腎臓、心臓などを作成することです。この研究が成功すれば、毎年数千人の命が救われることになるでしょう。

“「厚みがあり複雑な組織の実現にはもっと時間がかかりますが、組織を3Dで見たときの最小の厚さがミリメートル単位であれば、より早期に、実際に作成できるでしょう。」”

インクの代わりに細胞を使う印刷

バイオプリンティング は、特殊な形式のコンピュータ制御による3D印刷です。3D印刷では、事前に定めたパターンでプラスチックまたは金属の層を積み上げてから各層を融合させて、宝飾品からジェットエンジンに至る、あらゆるものの部品にします。ただしバイオプリンティングでは、ビーズ状の生きた細胞の「バイオ・インク」の層と、結合ジェルの層を交互に重ねます。驚くべきことに、細胞は、それが万能の胚性幹細胞であるか、特定目的のために選ばれた成体幹細胞であるかを問わず、人体内で果たすのと同じ機能を実行するよう自身を組織化します。

3D バイオプリンティング は、現在、富山大学の工学部生命工学科教授を務める中村真人教授が考案したものです。中村教授は、インクジェットプリンターによって紙に置かれる小さなインクの液滴のサイズが、生体細胞のサイズとほぼ同じであることに気付き、最初の3Dバイオ・プリンターを2006年に製作しました。

「われわれは、種類が異なる細胞を使用して3D構造を製作できることを実証しました。血管の構造を模して、内側は血管内皮細胞、外側は平滑筋細胞という異なる種類の細胞で2層の管を作ることに成功したのです」と中村教授は語ります。

 

拒絶反応や動物実験の回避

ドイツのハノーバーレーザーセンターでは、技術者が繊維芽細胞とケラチン生成細胞の2種類の細胞を使用してヒトの皮膚組織を3Dで印刷しました。実験室環境では、それら2種類の細胞がヒト組織を再現するように並行して増殖しています。

バイオプリンティング 皮膚グループの長であるLotharKoch氏は、「私たちはこの皮膚移植片をヒトおよびマウスでもテストしました。傷を覆う組織として、とてもよく機能しています」と語りました。最初の段階としては、皮膚は免疫不全になるように作られたマウスに移植されることになっているため、組織の拒絶反応は起こりません。しかしKoch氏は、最終目標は、ヒトの皮膚細胞を使用して拒絶反応を回避することだと述べています。

これまでのところ、科学者は組織の内側の層に栄養分を供給する方法を見つけていないため、 バイオプリンティング による生きた組織はすべて非常に薄いものです。「組織を厚くしたい場合には血管が必要で、血管がなければ内側の細胞が死んでしまいます」とKoch氏は述べています。

バイオプリンティング で作成したより厚い皮膚があれば、動物実験を行わずに新しい美容製品の安全性をテストできるため、世界全体の化粧品市場に対する経済効果は年間2,650億ドルに上ると見込まれています。こうした理由から化粧品会社が バイオプリンティング の大口の財政的支援者となっています。

その他の業界で大きな恩恵を受けることが考えられているのは製薬業界です。初期の肝細胞単体で行われる毒性試験では安全とされながら後に行われる肝臓組織を使った試験では不合格と判定されることにより毎年50億ドルの開発費が無駄になっています。

Murphy氏は、OrganovoHoldingsInc.社では2014年末までに、実験室テスト向けの3D肝臓を市場投入する予定だと述べています。これまで、2日間で死滅するシャーレ内の細胞を対象とした低精度のテストと置き換えるのです。同社では、3D肝臓が薬品を繰り返し投与するテスト期間にも十分対応し、失敗する運命にある化合物への投資を削減することになると期待しています。

実り多い領域

米国ニューヨーク市にあるコロンビア大学の科学者たちは、 バイオプリンティング による歯と関節の作成に取り組んでいます。これらには栄養が不要なため、組織の維持がより容易なはずです。コロンビア大学のチームは、ラットのあごの骨に、3Dプリンティングによる土台でできた歯を埋め込みました。2ヵ月以内に、インプラントによって歯根膜の成長と新しい骨の形成が促されました。ウサギに対するバイオ・プリンティングによる寛骨の移植も実施され、そのウサギは数週間以内に新しい関節を使って歩き始めました。

Murphy氏は次のように述べています。「満たされていないニーズにより実り多い領域が多数あります。それは特に、医薬品分野で顕著です。厚みがあり複雑な組織の実現にはもっと時間がかかりますが、組織を3Dで見たときの最小の厚さがミリ単位であれば、早期に実現可能となるでしょう。当社ではそうした組織を5年以内に人に対する臨床試験に投入することを目標としています。」

文・チャールズ・ウォレス

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