【デザインとシミュレーションを語る】 84 : Simulation Governanceを俯瞰する

【第10章 Simulation Governance】84 : Simulation Governanceを俯瞰する

ダッソー・システムズの工藤です。また、しばらく記事が滞っておりました。書きたいことは溜まっているのですが、関連性や順番を整理しておかないことには、読む側に余計な負担がかかってしまいます。本年は、この章のテーマであるSimulation Governance活動をまさに実施している最中ですので、そちらに集中していたという弁解でお許しいただくことにしましょう。

 

本ブログ79号「Simulation Governanceとは?なぜ必要?」で、Technology, People, Processというフレームワークの観点でシミュレーション“業界”の状況を述べました。今回は、これらにCultureを加えた4カテゴリーで、Simulation Governanceの全体像を俯瞰し、下図に表現しました。

 

この図でまず見ていただきたいのは、一番左端の危機と右端の変革です。最近のコロナ禍やウクライナ戦争の影響によるビジネスインパクトは言うまでもなく、人口減、食糧危機、地政学的な激変など、危機的状況には枚挙に暇がありません。一方でこの10年急速に経営指標として浮上してきた脱炭素化、SDGsやESGへの対応も急務です。もちろん、どの産業も多かれ少なかれ影響を受け、そのような環境のなかで競争に勝たねばならない、いや生存しなければならないというのが今日の状況です。そうした状況に対応すべく、製造業で変革的対応がしっかりと出来ているのかという大きな疑問をぶつけたときに、対応策の一つとしてシミュレーションの果たす役割はそれ相応に大きいはずです。たとえばシミュレーションの導入により開発効率を上げて浮いたリソースを新製品開発にむける、取り扱い製品の種類を柔軟に増やす、新しい事業の実現可能性を検証する、といった役割が想定できます。

 

皆さんの会社で、何か新しいコトやプロジェクトを明日から実施する、となった段に、果たして今持っている技術だけですぐに対応できるのかどうかをじっくりと考えて欲しいのです。皆さんの会社のCAE技術を見渡してみてください。精度の高い構造解析技術を持っています、大規模な流体解析ができるし、機構解析の技術も持っていて、1D-CAEにも着手しています、というだけで、果たして会社のビジネスを改革できるような活動に対応できるでしょうか?

 

私の答えを述べましょう。技術を持っているのは必須で重要なことは確かですが、技術だけでは十分ではないということです。ゴールデンサークル理論という有名なマーケティングの考え方である、Why~How~Whatという視点でみると、技術はWhatという道具に位置します。しかし、それを“活用”する方策を十分に持ち、推進・支援する“体制”というHowを持たないコトには、Whatである技術を活かせないのです。そして、そうした活動を強く動機づけるのが、Whyとしての“文化”なのです。下図では、黄色で表現しています。物事が大きく進むときというのは、かならずWhy~How~Whatの位置づけが明確で、それらを構成するコトが存在し、かつバランスが取れています。悪い例で言うと、しばしば国家プロジェクトがうまくいかないのは、箱(What)だけ作って、Howがなく、Whyに説得力がないからです。

ⓒKeiji Kudo(Dassault Systèmes)

 

しかし、皆さんの内なる声として、“そうは言っても、文化を変えるとか、体制を整備するとか、活用方法を確立するとか、そう簡単にはできない”という言葉が聞こえてきそうです。たしかに、おっしゃる通りです。では、良く考えてみてください、皆さんが今持っているシミュレーションの技術こそ、そうそう簡単に育成できるものではなかったはずです。5年~10年かかって、自分で身につけ、組織に定着させてきたものではないでしょうか?相当の苦労があったはずです。そうであれば、活用も体制も文化にも、意識しさえすれば、それ相応に対処することは、可能であるはずです。皆さん個人だけでは難しくても、上司に働きかける、組織のしかるべき部署に相談する、何かの機会に提案する、有志で議論するなど、着手できることはたくさんあるはずなのです。一筋縄ではいかないことこそ、何かしらの一歩が、すべての一歩が重要なのです。最初の一歩なしには、1mでさえも、前に進めません。最初の一歩は簡単ではないこともわかっているが故に、その一歩を踏み出していただきたいために、このブログを書いています。次回以降、Simulation Governanceの詳細な項目を詳しく説明していきます。皆さんの状況のなかで、どの方面に一歩進めばいいのかの道しるべとなることが目的です。

 

85:Simulation Governanceを明確に定義する  に続く

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤はCAE分野で39年の経験を持つエキスパートとして、CAE開発・販売、HPC活用・マーケティング、最適設計・ロバスト設計市場開拓などを経験し、現在はシミュレーションを活用した設計業務改革コンサルと自身のノウハウ形式知化に取り組んでいます。
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