設計・シミュレーションNovember 27, 2020

【デザインとシミュレーションを語る】67 : シミュレーションをつなげる方法を整理する

今回は、Multi-Physics(複合物理)あるいは、Multi-Disciplinary(複合領域)のシミュレーションを扱うときの、つなぎ方について議論しましょう。モデルを連成するとか連結するとか言いますが、実際のところどういう問題に対してどういう”つなぎ方“があるのでしょうか?
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Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)

【第8章 複雑性設計に対応する】シミュレーションをつなげる方法を整理する

ダッソー・システムズの工藤です。今回は、Multi-Physics(複合物理)あるいは、Multi-Disciplinary(複合領域)のシミュレーションを扱うときの、つなぎ方について議論しましょう。モデルを連成するとか連結するとか言いますが、実際のところどういう問題に対してどういう”つなぎ方“があるのか、私自身一時混乱していた時があって、自分で納得できる整理のしかたをしてみようということで、作ってみた図と表を紹介します。

©Keiji Kudo

まずは、添付図を見てください。構造と流体と機構の3領域の物理現象が絡んだ問題を想定しています。構造と流体は熱問題も含む場合があるとします。物理現象同士で交換される量が何か、によって問題特性が変わります。まず、一番左が、強連成計算(Strongly coupled calculation)の場合です。交換データは、方程式内の物理量が同時に交換され、完全に一緒に解かないといけない問題ということで、強連成と言われます。一番わかりやすい例は、熱流体問題でしょう。プラズマに代表される電磁流体や相変化を伴う流れも典型的な強連成問題です。方程式を一緒に解かないといけないので、高度な専用のアプリケーションが必要になり、通常計算時間も膨大になります。研究領域の問題が多いですが、熱流体の場合は、早い時期から汎用ソフトの中に組み込まれており、製品設計でよく使われます。

次に左から2番目の弱連成計算(Weakly coupled calculation)では、境界条件の物理量が双方向で交換されます。血流による血管の変形、水流とホースの挙動、航空機翼のフラッタリング現象など、構造と流体が絡んだ問題がわかりやすいですね。流体からの圧力という境界条件が、構造側に伝達し変形し、それにより流れも変わるという相互作用が起きます。よって、流れ~圧力~変形の現象が、双方向で時々刻々とつながらないといけません。同期して交互作用する複数の物理現象を扱う問題です。しくみとしては、構造解析や流体解析のアプリケーション同士で境界条件を交換し合うインタフェースで対応できるのですが、Functional Mockup Interface (FMI)という標準規格で異なるベンダーの異なるソフト同士でつないだり、私ども製品の場合はCo-Simulation Engineと呼ばれるインタフェースを持っていたりします。

次に、順列型複合領域問題について説明しましょう。複合工学問題の連携計算(Collaborative calculation)と言い換えてもいいです。この場合の交換データは、一方向でのみ授受される境界条件になります。定常的な流体圧力を受けた構造の変形や応力計算がわかりやすいでしょう。航空機や船や橋など、定常的な流れ場のなかの構造問題はすべてこの領域です。少し複雑な例ですと、回路設計の熱問題があります。電流が流れると電磁場が生じて、回路に抵抗が生まれ、発熱します。シミュレーションの観点からは、電流場計算を行い、回路シミュレーションを行い、熱計算を行うという順番になります。データの受け渡しという観点では非常にシンプルで、前の計算の出力を次の計算の入力にするというバトン渡しをすればいいだけです。解き方は、「順列」なので、順列型複合領域問題と称しています。IsightやSPDMのワークフローを活用することで、入出力ファイルの受け渡しと計算を自動で行うことができます。

最後の並列型複合領域問題は、ほとんどの設計問題がこれに相当します。例えば、構造・機構・流体問題の間で直接のデータ授受はないけれど、形状・寸法・板厚・材料といったモデルを変更することで、現象同士でのトレードオフ関係が生じます。通常、個々の問題として担当者が別々に解いて、設計案を持ち寄って検討し摺り合わせを行うわけですが、その結果どこかの性能に妥協が生じたり、すべてを満足させるために妥協的な設計変更が行われたりしてしまいます。そうした不合理性を回避するために提唱されるのが、複合領域のモデル同士を同時並列に計算して、すべての性能を満足しながらベストな設計探索を行う複合領域最適設計(Multi-Disciplinary Optimization : MDO)です。MDOというテーマはあらゆる設計問題に関わるので、広く研究され数多くの事例があります。順列型と同様、IsightやSPDMのワークフローと設計探索手法を活用することで、同時並列計算と探索・分析を行うことができます。

上述の説明文の中で、太字にした言葉に改めてご注意ください。異なる物理現象を解く方法の違いが、同時、同期、順列、並列と示されています。このように眺めることで、問題の扱い方と特性の違いを、シンプルに理解することができますね。上述の記載を表にまとめて下記に整理しました。

©Keiji Kudo

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