【デザインとシミュレーションを語る】 65 : 設計タスクの複雑性〜Design Structure Matrixで仕事を構造化

ダッソー・システムズ ブログ
【デザインとシミュレーションを語る】

 

【第8章 複雑性設計に対応する】 設計タスクの複雑性〜Design Structure Matrixで、仕事を構造化

 

ダッソー・システムズの工藤です。今回は、プロセスの複雑性のカテゴリーの最初にリストした「設計タスクの複雑性」についてお話します。カテゴリーの全体像については、こちらをご覧ください。

 

設計タスクの複雑性(本章で解説) 

What:設計タスクのINPUTとOUTPUT同士での複雑な参照依存性を分析し、早期に決定しておくべき設計要件を特定し、大きな手戻りが発生しないようにする問題

How:Design Structure Matrix (DSM)

 

各人の仕事は分かっていて、手順は決まっているように見えても、全体像はなかなか見えにくいものです。要件は増え、条件や仕向け地は多岐にわたり、環境や法規制なども日々増えており、仕事は複雑になるばかりです。そうした中でたとえば、自分の仕事のアウトプットが、どれだけ下流工程に影響を及ぼしているのか、あるいは、上流設計のやり直しに、加担することになっているかもしれません。でも、自分の仕事の周辺を見るだけでは、全体の仕事同士の”相互作用”は見えないのです。ここでは仕事を一つの塊と捉えてそれらの関係性を捉えるにはどうするかと考えてみます。一つの塊を表現するのに、英語でモジュールという言葉がありますので、それを使いましょう。モジュラー化について語られているときは、製品のモジュラー化のことを指していることがほとんどです。また、生産工程の世界では、流れ作業は組立作業のモジュラー化、セル生産方式は、生産者を中心に考えたモジュラー化とも言えましょう。ですが、設計業務のモジュラー化は、製品や生産という視点に比べて、着目度が少なかったのではないでしょうか?

 

ここで登場するのが、DSM(Design Structure Matrix)という強力な手法です。その名の通り、設計業務を構造化表現する方式のことで、設計のモジュラー化を前提として、それらの関係性を表現し、よりよい構造に変更するための手法です。DSMは日本ではまだそれほど知られていないテクノロジーのように思います。DSMでは、作業の単位ごとに、情報のINとOUTを記述します。仕事の粒度が十分に小さければ、仕事は、入力→処理→出力で記述できます。それらを行列として書き出すことで、仕事全体での入出力の流れを一望できます。その中で、フィードバックを引き起こす仕事の順番を入れ替えることで、フィードバックをなくすか、後戻りする距離を最小限にする、仕事の順番を再構成することができます。一言でいうと、仕事の流れをもっとも円滑にするために整流化する方法となります。本質はこうなんですが、現実はもっといろいろあるわけで単純ではなく、そこがまた面白いところでも、あります。DSMの学会もあるぐらいですので、基礎・応用ともにかなり勉強し応えあるのではないでしょうか。

 

この投稿は、DSMの詳細を説明するのが目的ではありませんので、下記にいくつかの公開論文をお知らせしておきましょう。これだけ読めばきっと、これは少し知らないといかんかな?と思われるはずです。

 

<基礎的内容>

1. 入門的内容:DSMって何?をわかりやすく説明してあります。3分でポイントわかります。
「DSM-Design Structure Matrix 3D機械設計への応用」 CADJapan.com
http://www.cadjapan.com/topics/3dcad/110704_dsm.html

 

2. 詳しい内容:DSMの詳しい説明と応用的考え方が幅広く説明してある論文です。
「製品開発マネジメントの分析ツールとしての設計構造マトリックスに関する考察」広島大学論文
http://cres.hiroshima-u.ac.jp/17-02.pdf

 

3. 「製品システム設計におけるシステムの構造分析とマネジメント」 東京大学 2016
https://www.jstage.jst.go.jp/article/trafst/10/1/10_22/_pdf

 

<応用テーマ>

4. 「工程・組織効率化のための設計手法」 東芝レビュー 2005
http://www.toshiba.co.jp/tech/review/2005/01/60_01pdf/b05.pdf

 

5. 「メカ設計支援ツール」 富士ゼロックス テクニカルレポート 2008
http://www.fujixerox.co.jp/company/technical/tr/2008/pdf/s_4.pdf

 

6. 「DSMとシミュレーションを用いた開発プロセスの提案」 本田技術研究所 2017
https://www.hondarandd.jp/point.php?pid=1237&lang=jp

 

7.  「システム定義手法を用いたシステムデザインにおける自動最適化アルゴリズムに関する研究」 大阪大学 2013
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspmee/3/1/3_67/_pdf/-char/en

 

【DASSAULT SYSTEMES 工藤啓治】

 

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工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤はCAE分野で36年の経験を持つエキスパートとして、CAE開発・販売、HPC活用・マーケティング、最適設計・ロバスト設計市場開拓などを経験し、現在はシミュレーションを活用した設計業務改革コンサルと自身のノウハウ形式知化に取り組んでいます。
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