設計・シミュレーションOctober 13, 2020

【デザインとシミュレーションを語る】63 : 性能モデルの複雑性~1D-CAE, Co-simulation

性能モデルの複雑性と、1DCAEやCo-simulation技術、FMIについて
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Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)

【第8章 複雑性設計に対応する】63 : 性能モデルの複雑性

前回記事ではモデルの複雑性のカテゴリーで、製品モデル、解析モデルに加えて、「性能モデル」という若干聞きなれない言葉を使いました。下記に再掲します。

性能モデルの複雑性(本章で解説)

What:強度・熱・流れなどのメカ性能に加え、電磁場・光学などの電気的性能、制御や組込みソフトを統合的につなげて解かないと設計できない問題

How:1DCAEやCo-simulation技術、FMI

個々の解析領域の詳細なモデルを「解析モデル」とし、製品のあらゆる性能を包括的に取り扱うモデルを「性能モデル」と区別をしています。目的もモデル化技術も明確に異なるからです。性能モデルでは、単一性能を表現するモデルの精度は多少粗いにしても、すべての性能の関係性を表現することが重要になってきます。上記に書いてあるように、いわゆる性能モデルの複雑性を主に活用することになります。一つのアプリの中でマルチ・フィジクスや制御その他多様な表現できる統合ソフトが世の中には多数あり、弊社の製品ラインナップの中では、Dymolaが相当します。

1DCAEについては、当ブログのNo.30:1D-CAEの価値とパラメータ同定に、そのポイントについて説明していますので、兼ねてお読みください。

しかし、しだいに複雑になっていく製品設計においては、これほど機能が豊富な統合ソフトをもってしても十分ではない状況が生まれています。そのことについて理解するには、モデルのFidelityを説明した、No.31:Fidelityという概念とModel Based Designの関係を改めてじっくりとお読みください。4年前に書かれた記事ですが、状況はほとんど変わっていません。シミュレーション・モデルをどこまで段階的に表現しているかを示す言葉として、Fidelityが高い(High Fidelity)とか低い(Low Fidelity)といういい方、あるいは詳細モデル、粗いモデルという言い方をしますと、1DCAEモデルの中でも、内部のサブシステムやパーツを表現するのに、詳細モデルと粗いモデルを使い分けなければいけないという事態が生じます。

例えば、製品の基本性能のバランスを検討する段階では、たくさんの組み合わせの製品仕様パターンを、膨大な利用シナリオの下で大量のパラメトリックな計算をする必要があるので、精度を多少犠牲にしても計算時間が優先されます。一方、特定のサブシステムにフォーカスしてその基本的なふるまいを、全体のバランスを考えながら設計したいという場合には、全体系のモデルを粗く、サブシステムについては詳細にするという組み合わせが必要になります。さらに、詳細な3D現象と組わせて解く必要がある場合には、専用の解析ソフトと連携するCo-simulation技術が必要になります。例えば、熱マネージメント問題を解くには、全体系挙動を1D-CAEや制御ソフトで計算しながら、発熱体や冷却現象については詳細な熱流体ソフトと連携させる、といった使い方です。また、EVはじめあらゆる電動化システムにとって不可欠なバッテリーの開発においても、制御と電池性能挙動と発熱・冷却問題を連結して解くというCo-simulationの大きなテーマがあります。従来であれば計算時間の制限や挙動が複雑すぎて解けなかった過渡的な(時間依存性の高い)現象を解くことができるわけなので、マルチ・フィジクス/マルチ・エンジニアリングの複雑な解析モデルと性能モデルをつなぎ合わせ、一つのシステムとして表現する手法として、Co-simulation技術はますます発展していくはずです。加えて重要なのは、全体系を一つのシステムとして解けるということなので、過渡的な複雑な現象さえも自動化して繰り返し計算を行う道筋ができるということになります。

一方、課題もあります。一つ目は複数のソフトウエアを連結しなければならないというインタフェースの問題です。異なる領域、異なる時間挙動、異なる開発会社のソフトウエア同士をつなぐというのは簡単なことではありません。幸い、そうした事態を見越してすでにFMI (Functional Mockup Interface)という非常に汎用的で優れた標準IFが普及していて、たくさんのソフトウエアがFMI準拠のIFを持ち始めています。実際に動作させると、動作条件の制限、ソフトウエア間の整合性、相性といった問題も出てきますが、今後普及が進むのは間違いないでしょう。二つ目の課題は、計算時間です。計算時間刻みごとに3Dの過渡的な現象同士がコミュニケーションするわけなので、それなりの計算リソースが必要になります。さらに、自動化してたくさんのパラメータスタディ計算を日常的にできるようになるまでには、日夜向上しているコンピュータの性能に期待しその時を待つ必要があるでしょう。いずれにせよ、計算時間の課題はかならず解決されていくには違いありません。

【DASSAULT SYSTEMES 工藤啓治】

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