設計・シミュレーションJune 3, 2020

【デザインとシミュレーションを語る】62:複雑性設計をモデル・データ・プロセスの視点で整理する

様々な複雑性を具体的に解きほぐして整理し、複雑性設計の多面性とその解決手段を理解していこうというのが、8章のテーマになります。まずは、複雑性のカテゴリーを定義して、テーマ名とその複雑性が直面する課題あるいはテーマをWhatで、解決手段をHowで記述することにします。
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Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)

【第8章 複雑性設計に対応する】 複雑性設計をモデル・データ・プロセスの視点で整理する

さて、様々な複雑性を具体的に解きほぐして整理し、複雑性設計の多面性とその解決手段を理解していこうというのが、8章のテーマになります。まずは、複雑性のカテゴリーを定義して、テーマ名とその複雑性が直面する課題あるいはテーマをWhatで、解決手段をHowで記述することにします。実はすでにかなりのテーマは、本ブログですでに解説済みであることがわかります。複雑性という視点で見直してその位置づけを確認していただくために、全体像を整理してみましょう。

<モデルの複雑性>

製品モデルの複雑性(本ブログでは省略)

What:部品数が多いことに加え、派生製品が増え、体系的管理や更新管理が困難になっている問題

How:CADモデルのファイル管理から、Product Data Structureというデータ体系での管理

解析モデルの複雑性(本ブログでは省略)

What:非線形性の高い現象を正しい条件設定を行って高精度に解析する問題

How:構造解析・衝突解析・機構解析・流体解析・電磁場解析などのシミュレーション・ソフトウエアで対応

性能モデルの複雑性(本章で解説)

What:強度・熱・流れなどのメカ性能に加え、電磁場・光学などの電気的性能、制御や組込みソフトを統合的につなげて解かないと設計できない問題

How:1DCAEやCo-simulation技術、FMI

設計構成要素の複雑性(本章で解説)

What:大量の要件と実現すべき機能と性能の関係性が複雑なため、それらをすべて記述したうえで変更時の影響範囲や決定すべき優先度を決めなければならない問題

How:Model Based Systems Engineering (MBSE)、Requirement Engineering

<データの複雑性>

相反問題の複雑性(第3章で解説済)

What:重量やコストを含む複数の性能間の相反性を、擦り合わせて調整せざるを得なくなることで、手戻りや性能未達が発生してしまう問題

How:構想設計段階で、複合領域最適設計、多目的最適化手法を活用し、すべての性能を満足する設計解を探索

設計データ構造の複雑性(第3章で解説済)

What:実験計画法や最適設計探索から生成された大量の入力と出力の組み合わせデータから有意な設計情報を引き出す問題

How:設計情報学の方法論や多変量分析を駆使したパターン分析

設計可能空間の複雑性(第6章で解説済)

What:運用/適用条件を調整しながら、なるべく幅広い条件空間を満足する素性の良い製品仕様に絞り込んでいく問題

How:シナリオ空間と設計空間を組み合わせて設計可能解を探索する想定設計

不確定性による複雑性(第5章で解説済)

What:制御できない誤差要因があっても、性能が不安定になったり、制約条件を超えないような設計案を導き出す問題

How:ロバスト設計、信頼性設計

<プロセスの複雑性>

設計タスクの複雑性(本章で解説)

What:設計タスクのINPUTとOUTPUT同士での複雑な参照依存性を分析し、早期に決定しておくべき設計要件を特定し、大きな手戻りが発生しないようにする問題

How:Design Structure Matrix (DSM)

設計プロセスの複雑性(本章で解説)

What:異なる解析領域のCAEアプリケーション同士の入出力データや実行プロセスが、複雑に絡み合う複合領域や階層構造を持つ設計問題

How:設計プロセスのワークフロー化、PIDO(Process Integration & Design Optimization)

設計トレーサビリティの複雑性(第7章で解説済)

What:手動/自動からなるプロセスとデータとツールのすべてを紐づけ、トレーサビリティを取り、最新データを活用できる設計プロセス

How:Simulation Process & Data Management (SPDM), V&V

括弧に記載しているように実はすでにこれまでの章立てのなかで説明しているものも多いのです。改めて、複雑性という切り口で見てみることで、設計情報というモノと設計というコトの複雑性の全体像が見えてくるのではないでしょうか。

【DASSAULT SYSTEMES 工藤啓治】

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