【デザインとシミュレーションを語る】57 : SPDM as Virtual Sensor – 属性データ例と活用目的

ダッソー・システムズ ブログ

【第7章 計算品質標準化から知識化へ】SPDM as Virtual Sensor – 属性データ例と活用目的

 

第56回では、属性データとパラメータの違いについて明確にし、特に、属性データがAIに活用されうることを述べました。一方、AIは目的にあらず、何のためにAIを活用するかの目的が明確でないと、蓄積すべき属性データがわからないということも指摘しました。第56回で述べた属性データについて、改めて転載します。

 

設計業務を定義し、統計的に分析する属性データ(タグ)

  • 定義:ジョブ特徴量のマクロな識別子
  • 役割:設計業務を定義し、統計的に分析する
  • 凡例:タグ付けされるテキストや数値データ、特に担当者、日付、製品、仕様緒元、アプリ名、モデル特性、条件、モデル変更情報、結果、判断など。問題
  • データ量:(横軸)属性空間は数10~数100、(縦軸)ジョブ数は数100~数10万回
  • 用途例:

① データの検索やジョブ特性の統計的分析
② 過去データから、優れた対策案の特長抽出
③ トラブル未然回避の設計案、最短経路設計

 

定義と役割はいいとして、問題は用途例に記されたような活用目的は何かということです。①について考えましょう。「データの検索」だけであれば、全文検索でもある程度十分と思われるかもしれませんが、検索という行為の目的をよくよく考えてみると、そう単純でもないのです、例えば下記のように;

  • テキストで絞り込む=>主要/標準的キーワード
  • 範囲を絞る・比較する=>数値データ(条件、設計変数、性能値)
  • 類似パターンを見つける=>データ分析が必要
  • 変更履歴を見る=>履歴のデータセットを比較

 

ジョブ特性の分析であれば、何をもってジョブ特性とするのか、例えば、アプリの名前、計算目的、モデル規模、バージョン、計算時間、メモリ使用量、ファイル容量などの情報が必要になってくるでしょう。また、業務の内容に紐づけたいのであれば、適用している製品やプロジェクト名、製品タイプ、仕様緒元なども必要になるかもしれません。使い始めると、検索にかけたいキーワードはさらに出てくるにちがいありません。単なる検索であれば、あえて属性化する手間をかけずに、全文検索を活用し、目的が明確な統計的分析を行うのであれば特に数値データについては、しっかり属性化して収集しなければなりません。例えば、NGの結果要因分析、対策方法の分析、どんな解析や条件のときに苦労しているのか、担当者による違いは何か、設計のどの段階でどのような使われ方がされているのか、考え始まればきりがなく、様々な分析をしたくなるでしょう。

 

②の「過去データから、優れた対策案の特長抽出」の場合は、もう少しややこしくなりますね。まず、対策案の定義が必要になります。対策は何かを変更して検討したということなので、例えば板厚変更、形状変更、材料変更、条件変更、部品追加など様々でしょう。また、何を目的とした対策なのか、軽量化か、応力削減か、変位削減か、振動数の変更か、温度を下げるのか、現象によって何を改善しようとしたのかを、属性化しなくてはなりません。また、どの結果をどういう根拠で判断してOKだったのか、あるいはNGなのかは必須情報です。最後に、優れた対策の定義です。設計変更の回数か、最終的なOK対策案にたどり着くまでの案の少なさか、計算回数の少なさか、これもさまざまな指標が考えられます。

 

さらに、③の「トラブル未然回避の設計案」になるとかなり高度な判断をAIに要求することになります。どんなデータがあれば、そのような判断をさせることができるのか、①や②での経験をしてわかってくるのではないでしょうか。地雷を踏まないとか、ここ掘れワンワンのようなアドバイザ機能が出てくる可能性もありますね。その究極の姿として、初期案からOK案に至るまでの試行錯誤を最短にしてくれる“最短経路設計”(筆者の提唱用語)も実現してくるかもしれません。

 

実は、幸いなことに、ダッソー・システムズが提供している、SPDMの基盤である3DEXPERIENCE PLATFORMには、6Wtagと呼ばれる、タグ情報(属性)を自動的に収集する機能が備わっていて、基本的なWho, When, What, Where, Why, Howの情報をデータに紐づけることができるのです。ただ、何の設定もせずに収集できる情報は限られているので、意図的に紐づけたい属性データは、しっかり設定設定しておく必要がありますから、上記のことをわきまえておくことはとっても大切なことです。

 

「データ量」で示している、「(横軸)属性空間は数10~数100」の意味は、上記で説明したような属性データの種類が、少なくても数10種類で仮にこれを、50種類としましょう。次に、「(縦軸)ジョブ数は数100~数10万回」は、そうしたデータの数が実行されたジョブ数分だけ蓄積されるわけで、仮にこれを、1万回としましょう。そうすると、50 x 10,000の属性データ空間の情報が集まることになります。あとは、これらのデータをどう料理するか、というAI活用可能な次の段階に移れるわけです。

 

いかがでしょう、ここまでの準備は少なくとも人間が行わないといけないことで、何もせず、AIさんがそこまでやってくれるわけではありません。昨今AI流行りではありますが、意図したデータを正しく集めるという基本的なことと、属性データの活用をしっかりと考えないといけないことをご理解いただけたでしょうか。今後そういった実績が共有され、どんなデータを集めればいいか、どういう活用ノウハウがあるか一般化されるようになれば、データを収集すること自体は難しくないのです。一言でいうと、自動的に蓄積されるデータ群から属性データを抽出して、構造化されたデータセットにするのが、Virtual SensorとしてのSPDMの役割となります。 “SPDM as Virtual Sensor”としての能力を全面的に発揮する時代がもうすぐに来るはずと確信しています。今後大きな波となって着目されるでしょう。

 

【DASSAULT SYSTEMES 工藤啓治】

バックナンバー

【デザインとシミュレーションを語る】第一回:イントロダクション
【デザインとシミュレーションを語る】第二回:シミュレーションの分類
【デザインとシミュレーションを語る】第三回:シミュレーションは実験と比べて何がいい?
【デザインとシミュレーションを語る】第四回:シミュレーションは緻密な統合技術
【デザインとシミュレーションを語る】第五回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(1)
【デザインとシミュレーションを語る】第六回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(2)
【デザインとシミュレーションを語る】第七回:3D-CADは何のため?
【デザインとシミュレーションを語る】第八回 : CAE を志す人へのメッセージ(1)
【デザインとシミュレーションを語る】第九回 : CAEを志す人へのメッセージ(2)
【デザインとシミュレーションを語る】第十回: ソフトウエア・ロボットの誕生
【デザインとシミュレーションを語る】第十一回: 作業を自動化すること、その真の価値とは
【デザインとシミュレーションを語る】第十二回: “自動化を進めると設計者が考えなくなる?"への回答
【デザインとシミュレーションを語る】第十三回 : パラメトリック性の本質は新しい組み合わせ
【デザインとシミュレーションを語る】第十四回 : Zero Design Cycle Timeの衝撃
【デザインとシミュレーションを語る】第十五回 : 「設計とは最適化」の奥深い意味を教えてくれた技術者
【デザインとシミュレーションを語る】第十六回 : スーパーコンピュータで行われていた大量の計算とは
【デザインとシミュレーションを語る】第十七回 : 最適設計支援ソフトウエアの衝撃的な登場
【デザインとシミュレーションを語る】第十八回 : サンプリングって、偵察のことです
【デザインとシミュレーションを語る】第十九回 :  設計空間でシミュレーションを考える
【デザインとシミュレーションを語る】第二十回 : 安易に使うと誤解を招く言葉“最適化
【デザインとシミュレーションを語る】第二十一回 : 世の中すべてはトレードオフ問題
【デザインとシミュレーションを語る】第二十二回 : Optimization、Trade-off、Synthesis
【デザインとシミュレーションを語る】第二十三回 : 最適解は失敗の学習結果
【デザインとシミュレーションを語る】第二十四回 : ”設計とは逆問題”のココロは?(1)-森を見る利点
【デザインとシミュレーションを語る】第二十五回 : ”設計とは逆問題”のココロは?(2)-解空間から設計空間を絞り込む
【デザインとシミュレーションを語る】第二十六回 : 100倍性能の高いコンピュータがあったら?―森と木の視点
【デザインとシミュレーションを語る】第二十七回 : シミュレーション(CAE) の精度向上という根本問題ーその1
【デザインとシミュレーションを語る】第二十八回 : シミュレーション(CAE) の精度向上という根本問題ーその2
【デザインとシミュレーションを語る】第二十九回 : ”歯車と棒”でわかるシミュレーションにおけるパラメータ同定
【デザインとシミュレーションを語る】第三十回 : 1D-CAEの価値とパラメータ同定
【デザインとシミュレーションを語る】第三十一回 : Fidelityという概念とModel Based Designの関係
【デザインとシミュレーションを語る】第三十二回 : 品質に求める最高と安定と安心と
【デザインとシミュレーションを語る】第三十三回 : 製品ライフサイクルで考える不確かさと定量化の方法
【デザインとシミュレーションを語る】第三十四回 : 製品ライフサイクルで考える不確かさと定量化の方法
【デザインとシミュレーションを語る】第三十五回 : シックスシグマの意味
【デザインとシミュレーションを語る】第三十六回 : ロバスト設計の価値と方法論
【デザインとシミュレーションを語る】第三十七回 : タグチメソッドとシックスシグマ手法の使い分け
【デザインとシミュレーションを語る】第三十八回 : Simplicityという製品哲学
【デザインとシミュレーションを語る】第三十九回 : ミケランジェロは機能美を理解していた!
【デザインとシミュレーションを語る】第四十回 : 設計者の感性とは美しい設計=機能美-「風立ちぬ」を観て
【デザインとシミュレーションを語る】第四十一回 : 自然と工芸、科学と工学
【デザインとシミュレーションを語る】第四十二回 : 仕事の美しさと最適設計の美しさ
【デザインとシミュレーションを語る】第四十三回 : なぜ想定設計か、何を想定するのか?
【デザインとシミュレーションを語る】第四十四回 : Vプロセスにおける性能設計と機能設計の役割
【デザインとシミュレーションを語る】第四十五回 : Model Based Design (MBD)手法に隠されている本質とは
【デザインとシミュレーションを語る】第四十六回 : 想定要求と意思決定とは
【デザインとシミュレーションを語る】第四十七回 : 既存技術の組み合わせ探索
【デザインとシミュレーションを語る】第四十八回 : 素性の良い基本設計を導くための思考支援
【デザインとシミュレーションを語る】第四十九回 : シミュレーションを基盤とした設計フロント・ローディング手法の体系化とその実現
【デザインとシミュレーションを語る】第五十回 : 計算品質を標準化する価値
【デザインとシミュレーションを語る】第五十一回 : 計算品質を標準化するための方法論
【デザインとシミュレーションを語る】号外 : 本ブログが大きな契機になりました
【デザインとシミュレーションを語る】第五十二回 : 計算品質を起点として、設計品質を上げる取り組みへ
【デザインとシミュレーションを語る】第五十三回 : 計算品質の標準化を実践するしくみ
【デザインとシミュレーションを語る】第五十四回 : 計算品質保証の標準化の要求要件
【デザインとシミュレーションを語る】第五十五回 : 設計知見の蓄積と再利用のための実装と効果
【デザインとシミュレーションを語る】第五十六回 : SPDM as Virtual Sensor – AI活用に向けたデータ蓄積

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤はCAE分野で38年の経験を持つエキスパートとして、CAE開発・販売、HPC活用・マーケティング、最適設計・ロバスト設計市場開拓などを経験し、現在はシミュレーションを活用した設計業務改革コンサルと自身のノウハウ形式知化に取り組んでいます。
Comments are closed.