【デザインとシミュレーションを語る】48 : 素性の良い基本設計を導くための思考支援

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【デザインとシミュレーションを語る】

【第6章 想定設計を実現する】素性の良い基本設計を導くための思考支援

 

優れた基本設計とはなんでしょうか?単にベストな性能をもたらす設計というだけではないことは明らかです。これまで、“ 想定設計”というキーワードでお話ししてきた記事を読んでこられた皆さんはすぐにピンとくることでしょう。一言でいうとすれば、 後工程での手戻りを発生させないバランスのとれた設計であるとともに、予期せぬ課題が生じた場合でも少ない設計変更で対応できる 頑強な基本仕様を持つ設計とでもいいましょうか。優れたという表現だけでは物足りないので、“素性の良い基本設計” ということにしましょう。人間でいうと、柔軟な思考力やしっかりとした体幹筋肉というイメージでしょうか。

 

素性が良い基本設計とは、過去設計のトラブルを再発させないノウハウに加えて、後工程で生じうる変更可能性をなるべく考慮したロ バスト設計的な考え方が有効であることがわかります。この場合の設計因子はまさに素性の良さを決める仕様になり、誤差因子に相当するのは通常のバラツキ的な誤差ではなく、後工程での設計変更や 利用条件の多様性を想定した上下限値で表現される“想定因子” となります。ややこしい言い方をしていますが、この考え方がじつは極めて本質的なところで、何を“想定因子”として扱うかどうかが、ある意味この設計を担当している主任設計者の、あるいは組織としてのノウハウになるわけです。また、想定の初期値や上下限値がずれていたり、新たな想定変数が必要であれば、それを修正・追加し、常に後工程での影響が最小限になるような想定をできるようにしておく、柔軟なシステム化も必要になります。

 

基本設計を頑強にするためのロバスト設計の使い方は、まだ限られた事例ですが、ロケットの基本設計、宇宙機器の設計などに見られ ます。

 

宇宙船設計支援システムの研究 –概念設計のためのパラメータ感度解析手法の検討–
https://www.jsme.or.jp/dsd/A-TS12-05/minutes/28/090520JAXA.pdf

この論文では、「製品」(機体)を基本仕様とし、一つの「運用」 (軌道設計)を“想定因子”ととらえ、“P&O感度解析手法(P roduct and Operation sensitivity analysis method)“を提唱しています。

 

不確かさを考慮した構想設計段階における Simulation-Based Design の提案
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmeoptis/2016.12/0/2016.12_2111/_pdf

この論文では、“不確かな情報にはパラメータに対して成立性を考 慮し、かつ最適な機能の組み合わせを導出するためにタグチメソッ ドを用いて定量化する”ことをSimualion-Based Designとして提唱しています。

 

統合的設計管理手法(TDM)の構築と適用事例の紹介
https://www.jsme.or.jp/dsd/A-TS12-05/minutes/28/090520IHI.pdf

この論文では、“設計変数と評価指標の両方を属性値にもつ設計解 の全体集合(セット)のなかから,望ましい設計解を設計者と顧客 の意志で選択する設計手法”をSet Based Designとして提唱しています。TDMについてはほかにも公 開情報があり、特に下記のケース・スタディやスライドも参考にす るとより理解が深まると思います。

 

TDM-ケーススタディ
http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1604/08/news014.html

 

TDM-スライド
https://www.jsme.or.jp/dsd/A-TS12-05/minutes/28/090520IHI.pdf

 

いずれの論文でも共通している考え方は、シミュレーションに精度 を求めていない、むしろ精度が低いという前提で適用されているこ とです。考えてみれば、設計の初期である企画設計段階での適用を 適用しているため後工程で決まるはずの仕様が決まっていないとい う全体なので、当然ではあるのですが、シミュレーションに精度を 期待し実験を置き換えるという発想から脱却できないとすぐには馴 染めない考え方かもしれません。従来、設計者はこれまで話をして きたようなことを頭の中で考えながら基本設計を構想しているわけ なので、それをシミュレーションで代替しようということなのです 。さて、ここで今回記事の要点が明確になりました。

 

A) 従来のシミュレーションの使い方:詳細設計段階で、実験を代替する

効果:試作/実験の削減効果はあるが、詳細設計適用なので設計の 本質には影響を及ぼさない

 

B) 新たなシミュレーションの使い方:基本設計段階で、設計者の思考 を支援する

効果:素性の良い基本設計を導き、開発期間の大幅短縮、手戻り削 減、コスト削減に絶大な効果を及ぼす

 

これまでも、シミュレーションを早い段階に適用するという意味で の“CAEのFront-Loading” という視点はありましたが、具体的な手法には結びついていませんでした。どちらかというと、“基本設計CAEを適用したい=> 詳細モデルが必要=>基本設計では詳細モデルがない“という出口 のないロジックから脱却できていなかったのです。ここで、 ぜひ改めて今回の6章の記事を読み直していただきたいと思います 。必ずやシミュレーション活用のこれまでと異なるパラダイムが見えてくると確信しています。

 

【SIMULIA 工藤】
 
バックナンバー

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【デザインとシミュレーションを語る】第二回:シミュレーションの分類
【デザインとシミュレーションを語る】第三回:シミュレーションは実験と比べて何がいい?
【デザインとシミュレーションを語る】第四回:シミュレーションは緻密な統合技術
【デザインとシミュレーションを語る】第五回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(1)
【デザインとシミュレーションを語る】第六回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(2)
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