【デザインとシミュレーションを語る】46 : 想定要求と意思決定とは

ダッソー・システムズ ブログ
【デザインとシミュレーションを語る】

【第6章 想定設計を実現する】 想定状況と意思決定とは

 

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2017年3月7日に「第3回 自動車技術のためのCAEフォーラム」にて、「 手戻りゼロに向けたMBD活用による想定設計の実現」というタイトルで講演いたしました。 本章ではしばらくこの講演内容をまとめるという形で記事を紹介していきます。

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ブログのなかでケーススタディの技術的な説明をするのは、 ちょっとたいへんです。絵を使いたいのですが、 プレゼンや論文ではないので、そんなにたくさんは使えません。 ともあれ、今回は初ということでチャレンジしてみましょう。

 

前回の45で説明したMBDの4象限の図をもう一度見ていただけ ますでしょうか?1)モデルの標準化、2)手順の標準化、3) サンプリング計算、4)想定要求と意思決定、という4つの手順が 時計回りに示されており、今回のケーススタディの全体図は、 この手順に対応して並べられていますので、 順番に説明していきます。

 

 

① モデルの標準化

弊社のDymolaという製品で作成したHybrid Electric Vehicle (HEV)の1D-CAEモデルを示しています。1D-CAEは 、それ自体ですでに多くのパラメータを内在しており、 パラメータの組み合わせで様々な車の仕様や走る状況を想定してシ ミュレーションでできるので、そのまま“標準モデル” として使うことができます。

 

② 手順の標準化

Dymolaのシミュレーションを自動で実行するワークフローを 、弊社製品のIsight、あるいは、3DEXPERIENCE PLATFORMのProcess Composerアプリで作成します。どのモデルで、 どんな計算を、どういう手順で、どのパラメータを使って、 上下限値を設定して、 どんな量を出力して判断するかという設計情報が、 記述されかつ実行可能な形になっているという意味で、 標準化された設計タスクそのものということができます。

 

③ サンプリング計算

ここでは、制御変数5種、仕様変数5種の計10パラメータの設計 探索問題を設定します。 通常の問題と少し異なる設定になっているのは、パラメータに“ 車重”が入っていることです。経験のある方は、 重量は設計のアウトプットのはずなのに、 なぜ入力側に入っているのか?と疑問を持たれることでしょう。 そのココロは後で説明します。

 

④ 想定要求と意思決定

実験計画法を用いてさまざまな組み合わせのパラメータのシミュレ ーションを実行します。たとえば、1000ケースです。 一つの標準もでるから、1000種類の設計候補を自動的に生成し 、計算結果を得ることができ、そのデータ集合から、 どんな設計知見を得ることができるのか、 が最後の意思決定のポイントとなります。ここでは、 車重と燃費の関係を分析しています。

 

さて、③のサンプリング計算用パラメータに、 車重を含めた意図は、下記の想定設計をするためなのです。

 

後工程で重量が増加した場合に、 バッテリー能力とモータ仕様でどこまで燃費目標を担保できるか?

 

後工程で変更される可能性のある(まだ未定の) 重量をパラメータとして想定することで、 その影響を事前に検証するシナリオを作成しているわけなのです。 その結果である1000ケースの仮想経験DBを使うことで、④ では横軸に車重、縦軸に燃費(燃料消費量) を取った散布図を見ています。

 

まず、 重量が増えたとしても燃費を担保できる限界線が存在していること がわかります。重量増加と燃費最少という相反する2目的を満足す る最適解集合でもあるので、限界線(パレート解) が存在するのは当然です。この限界線の見方としては、 仮に後工程で重量増加があると燃費は悪くなるのは当然として、 その中でのベストな燃費を実現する設計を選択できることを意味し ています。その燃費が目標内にあれば、 大きな設計変更を要しないことがわかりますし、 逆に目標燃費に収めるための、許容可能な重量を見ているので、 限界判断が可能になります。

 

また、予期しない(想定外の)重量増加した場合にも、 同様に対応できるわけなので、無駄な手戻りをすることなく、 設計変更による影響の少ない設計案を、 合理的に選択することが可能になるわけなのです。 実際には燃費だけではなく、 他の制約条件の満足性も考慮しなければならないので、 選択肢はより少なくなるでしょうが、 選択肢を事前に検討できるという状態がまさに、 想定設計の大きな効果なのです。

 

このような想定設計的な分析を行うには、 第一にデータ集合のパターンを見るに十分なサンプリング計算のD Bが必要で、かつ、 データの見る視点を養うことが何よりも重要です。昨今、データ・ サイエンティストに求められるものとまったく同じく、 データ群から意味を汲み取る新たな素養を要求するのです。 仮想設計DBは、過去設計ノウハウをベースにした、 次世代設計に活用できるノウハウとして、 一度使って終わりではなく、新設計情報を付加し、より広範囲に、 より多様な設計案の組み合わせを加えて、 持続的に構築していくべき設計情報です。その意味では、 個人ノウハウではなく、 まさに合理的に誰でも使用できる組織ノウハウの形式知化の表現と いうこともできます。

 

【SIMULIA 工藤】

 

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工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤はCAE分野で38年の経験を持つエキスパートとして、CAE開発・販売、HPC活用・マーケティング、最適設計・ロバスト設計市場開拓などを経験し、現在はシミュレーションを活用した設計業務改革コンサルと自身のノウハウ形式知化に取り組んでいます。
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