【デザインとシミュレーションを語る】41 :自然と工芸、科学と工学

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【デザインとシミュレーションを語る】

 

【箸休めの章 美しさとデザイン】 自然と工芸、科学と工学

 

自然と工芸(Nature and Art)には、親和性が感じられます。工芸は自然の材料に人の意図を入れ込んで加工したモノ、と考えればもっともなことです。家具作家や彫刻家は優れた木を選び、木を活かすと言います。陶芸家は土に合った陶器を造り、土を活かすと言います。料理人は地元の新鮮な食材を選び、食材を活かすと言います。醸造家は最上の米を選び、米を活かすと言います。一流の仕事をする人は、自分が作ったという言い方をせず、あくまで、もともとあった素材の良さを引き出す、助けているだけだという言い方をするのは共通しています。自然あっての人間の活動、人間はむしろ生かされているという理解をすれば、言われずとも謙虚な姿勢になるのは当然なのでしょう。

 

一方、科学と工学(Science & Engineering)について、科学は自然を観測し、工学は自然を制御することで人の意図する何かを作る行為であると考えると、観測する科学は自然に対し謙虚であるのに対し、工学は“制御”する必要があるせいか、ともすると自然に抗い抑え込むという傲慢な思想が見え隠れすることがあります。川は曲がり、洪水になり、地殻が変動し、火山が噴火し、豪雪になり、干ばつになり、自然は変化そのものというか、変化することが自然であるのだけれど、人間の作ったものは、変化に抗って恒常的であるべきという前提であるような、相反する目的をもっているように見えます。ほっておくとすぐに動かなくなる機械は、汚れないように掃除し、劣化しないように保守をし、壊れたら修理をするわけですけれども、それでもモノには寿命がありいずれは使えなく時がきます。だいぶ前に「人類が消えた世界」という、人間が消えた瞬間から数時間、数日、数週、数か月、数年、数十年、はては数百年、数千年、数万年と時間が経つにつれて、地球がどうなるのかを説明した本がちょっと話題になりました。自然に対峙することで作られたモノは、いずれは自然の変化に屈して壊れる運命にあることを思えば、人間のつくるものなどは、ちょっと自然を利用し、それを制御し、都合よく動くようにした、精巧な何かに過ぎないともいえます。

 

機械的というと自然的要素がなく人工的なものの固まりのように聞こえますが、精巧なアナログ時計や電池を使わないカメラなどの”メカ”は、金属という自然の材料から、精巧な部品を作り上げて組み立てられたという意味で、人間の意図を持った緻密な工芸品いう見方もできるでしょう。手入れを怠ると錆びる、摩耗する、経年劣化して動かなくなるので、何をつくるにしろ、所詮は、自然材料と自然現象という根本原理からは逃れられないわけです。作るのに苦労する理由も、想定した通りに加工できない、変化する、ばらつく、壊れるという自然現象を完璧に制御できないからです。昨今のIoTを活用したリアルタイム運用情報の活用というのは、まさに限りなく制御をし利用効率を高めたいという人間の欲求の表れとみることもできます。

 

【SIMULIA 工藤】

 

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工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤はCAE分野で38年の経験を持つエキスパートとして、CAE開発・販売、HPC活用・マーケティング、最適設計・ロバスト設計市場開拓などを経験し、現在はシミュレーションを活用した設計業務改革コンサルと自身のノウハウ形式知化に取り組んでいます。
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