【デザインとシミュレーションを語る】39 : ミケランジェロは機能美を理解していた!

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【デザインとシミュレーションを語る】

 

【箸休めの章 美しさとデザイン】 ミケランジェロは機能美を理解していた!

 

ローマ、カンピドリオ広場のモザイクの床にミケランジェロがデザインした有名な幾何学模様があります。時計のように円周の等間隔12点から発するとても滑らかな曲線の組み合わせの対称紋様です。たくさん写真検索できますが、たとえば、これなど。

http://2011.designprinciplesandpractices.com/wp-content/uploads/images/g11/Roma%20-%20Piazza%20del%20Campidoglio.jpg

 

それだけなら、ああきれいだね、で終わるところですが、この模様を見たある日本人が、ある工学的な機能と合致するのではないかと直感し、実際にシミュレーションでそれを確かめたのです。その方が2012年に投稿した、このシミュレーション動画をご覧ください。

 

 

カンピドリオ広場の模様に完全に一致していることがわかりますね。ある条件を与えたときの、理想の形状を生み出してくれる技術を、「位相(トポロジー)最適化」と言います。もともとの形をどこから出発するか、どういう条件や、力や、強度を想定するかによって、得られる最軽量の形は千差万別です。カンピドリオ広場の模様のケースでは、円盤から出発して、見る見る間に形を変えて、例のミケランジェロの模様になって行くのがわかるでしょう。最初の形状はシンプルな円盤とし、中心円の周囲を固定するという条件を加えます、次に、外周の12箇所の点を固定して右か左に回転させようとした時に、なるべく軽くしながらもっとも変形しにくい(剛性が高い)形状を計算していったら、まさに、ミケランジェロが描いた模様とピタリ一致していくという計算が進む様子を見ているのです。左右どちらの回転でも成り立つようにしているので軸対象形状となります。もちろん、単なるアニメではなく、シミュレーションの結果です。

 

上で説明したことを、工学的には、「中心部を拘束した円盤の円周方向にねじり荷重を与えた時に,最も剛性の高い位相形態」と表現します。実は、このような条件を満たす実際の製品が回転する機械には存在できて、たとえばオートバイのブレーキディスクを例にした、位相最適形状の例が、以下のムービーに記されています。全体で1:40秒の動画の中の1:11あたりから登場します。カンピドリオ広場の模様は12点の拘束ですが、このケースでは6点を拘束した形状になっています。

 

 

純粋に工学的な機能だけを追求した形状を、そのような技術が知られる何百年も前に、一人の芸術家がアート模様として表現していた、という素晴らしい符合に感嘆するほかありません。ミケランジェロは、人物の彫刻をするのに、骨や筋肉のことを知るために解剖学を勉強したといわれるほどに、“対象を知る“ことを徹底したアーティストでした。なので、カンピドリオ広場の模様は単にひらめきで書かれたのではなく、何等かの方法を使ってこの最適形状を把握していたのではないかと推測できますので、どんな方法を使ったのか、想像をめぐらせたくなります。

 

今回の例は構造力学に基づくものでしたが、理想形状は流体力学に基づくものに多く見られます。航空機や新幹線の先頭車両の形状がわかりやすいでしょう。見ていて惚れ惚れするほど美しい形をしています。ある種究極の機能美は、芸術美に行き着くと信じたくなりませんか?

 

【SIMULIA 工藤】

 

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工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤はCAE分野で38年の経験を持つエキスパートとして、CAE開発・販売、HPC活用・マーケティング、最適設計・ロバスト設計市場開拓などを経験し、現在はシミュレーションを活用した設計業務改革コンサルと自身のノウハウ形式知化に取り組んでいます。
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