設計・シミュレーションDecember 7, 2016

【デザインとシミュレーションを語る】38 : Simplicityという製品哲学

2015年1月に本公式ブログで掲載を始めてからほぼ2年近くで、下記の5章にわたって37記事を掲載してきました。今回は箸休めの章として、美しさとデザイン 【Simplicityという製品哲学】をお伝えします。
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Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)
【デザインとシミュレーションを語る】

箸休めの章 美しさとデザイン 【Simplicityという製品哲学】

<まえおき> 2015年1月に本公式ブログで掲載を始めてからほぼ2年近くで、下記の5章にわたって37記事を掲載してきました。 1. シミュレーション視点

2. 自動化とパラメトリック性

3. 設計探索とトレードオフ

4. 計算精度とパラメータ同定

5. 不確定性を掌に置く

元々、Facebookの「デザイン&シミュレーション倶楽部」ページで介した当初は2013年ですから、それからもう4年になるわけで、その当時はまだ初期話題程度であった、機械学習や深層学習が昨今では至る所で見聞きするテーマになっていますので、進歩の速度には恐ろしいものがあります。後半章ではそのような昨今の状況を踏まえて少し見直し、下記の章立てとする予定です。これまでのペースとほぼ同じだとしますと、後半の5章を終わるのにあと2年はかかる勘定です。どうか、気長におお付き合いください。

6. 計算品質標準化

7. 複雑性を解く

8. 情報爆発

9. 知識化に向かって

10. 常に10年後を考えるイノベーション思考 とはいえ先が長く、ちょうど真ん中でもありますので、今回以降はしばらくは“箸休め”ということにして、少し脇道的な話題をいくつか書いていくことにいたしましょう。しばらく続く記事は、概ね”デザインと美しさ“に関係するテーマになりそうです。

<本記事>

さて、というわけで、美しさとデザインに関するの最初のテーマは、Simplicityという言葉の深い意味についてです。iPhone5sあたりと同時期に登場したIOS7がリリースされたときに、Appleの紹介用WEBのDesignというカテゴリーの説明の中で書かれていた、Simplicityについての文章が実に秀逸だったのです。

今は存在しないので、下記に掲載します。 <原文引用>

[Simplicity is actually quite complicated]

Simplicity is often equated with minimalism. Yet true simplicity is so much more than just the absence of clutter or the removal of decoration. It’s about offering up the right things, in the right place, right when you need them. It’s about bringing order to complexity. And it’s about making something that always seems to “just work.” When you pick something up for the first time and already know how to do the things you want to do, that’s simplicity. <引用おわり>

英語表現としても非常に美しく、アップルの哲学、ジョブズの思想が凝縮されているような、素晴らしい表現に感動してしまったあまりに、その本質と格調さを損なわないような日本語にすべく、ちょっと頑張って訳してみたのが、下記です。その後正式な日本語訳が出たかどうかを確認していませんでしたので、<勝手な日本語訳>として掲載させてください。

<勝手な日本語訳>

[簡素さを追及することは、ほんとはとても複雑なこと]

簡素さ(シンプリシティ)は、時にミニマリズムと同一視されることがあります。真の簡素さは、むしろ、乱雑なものを排除したり、装飾をなくしたりということだけではない、それ以上の何かなのです。正しいものが、正しい場所に、あなたが必要だと感じたその時に提供されていること、とか、複雑性に秩序をもたらすこと、また、あるべきものが、あるべき状態で動くようにすること、と言ってもいいでしょう。あなたが、何かを初めて手にしたときでさえ、あなたがどう動かしたいかをすでに知っているように思えること、それこそが簡素さ(シンプリシティ)の真の姿なのです。 <翻訳おわり>

どうでしょう、これは、もはや広告を超えた、美しいSimplicityの定義そのものではないでしょうか。これを読んだときにぜひとも感銘の共有をしたいと思ったのです。こういう哲学で作られた”モノ”だったら魅力があって当然でしょう。似たような部品の組み合わせだけでできるものでは、断じていない、ということもわかりますね。この哲学に従えば、曲線一本も、配置一つもないがしろにされず、すべての設計に明確な意味があるはずだ、ということも十分に想像できます。

設計の本質がとてもわかりやすく書いてあると思いませんか?なんにでも通じるシンプリシティだと思いませんか?日本語で簡素さというよりも、英語でSimplicityという方が、哲学的でしっくり来る気がします。また、3年前に書いた時にはわからなかったある言葉も想起できることがわかりました。“経験”です。シンプリシティということばを通じて、ユーザの“経験”を想定してつくる、と言っているのです。“正しいものが、正しい場所に、あなたが必要だと感じたその時に提供されていること”とは何かを想像することの重要性を語っています。たくさんの本質が詰まっている実にすばらしい文章なのだと改めて思いました。

どんな類似製品が出てこようと、iPhone/iPadの絶対的存在意義は、Simplicityの製品哲学を製品にしたものだっていうこと、それは誰にも真似できないことなのだと。

【SIMULIA 工藤】

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