設計・シミュレーションSeptember 30, 2016

【デザインとシミュレーションを語る】35 :シックスシグマの意味

第35回「デザインとシミュレーションを語る」はシックスシグマの意味です。
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Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)
【デザインとシミュレーションを語る】

第5章 不確定性を掌に置く 【シックスシグマの意味】

英語でRobust Designと書きますが、Robustを辞書で引くと、たとえば以下のような訳語が出てきます。

【形-1】(力)強い、頑丈な、じょうぶな、頑強な、強固な、堅固な、堅牢な

この訳語で、頑強設計、堅牢設計、健全設計といっても、強く設計するのは当たり前でしょ、で終わってしまいますし、実は、英語のRobustに含まれている重要な意味がこれらの日本語では表現できないのです。それば”誤差に強い”という意味です。Robust設計とは、”製造や使用条件にバラツキがあっても、ブレずに安定した性能を出ることができる設計”、なのです。製品の信頼性を上げる設計手法の一つです。(混乱されるかもしれませんが、信頼性設計とは、別の概念です。別の機会に違いを説明しましょう。)

考慮すべき誤差(バラツキ)は、それこそ無数にあります。スマートフォンの設計を想像してみましょう。作るときには、プラスチック、ガラスや金属など材料の物性、厚さ、寸法、接着剤などの誤差、加工劣化、変質などを考慮してキチンと動作しなくてはいけませんし、使うときは、温度、衝突、落下、振動といった環境変化に対しても壊れないことが求められます。これらすべての状況を考慮して、正しく動作して、性能が発揮される設計を行うことが、広い意味でのロバスト設計に相当します。

さて、現代の製品設計にどれだけ高い信頼性が要求されているかを考えてみてください。iPhoneなどのスマートフォンは、数100万台から数1000万台の規模で出荷されます。これだけの量の製品で果たして、どの程度の不具合率であれば感覚的に許されるでしょうか?

その前に面白いリストがあるので、紹介しましょう。信頼性を%で表示すると、小数点以下の9が続くだけで、ピンとこなくなりますので、Sigmaという指標を使って示しているのが、3.0sから、6.2sまでの数字です。後で説明します。

  • 平均的な会社の活動や製品の品質 3.0s(99.73%):1000個に数個の不具合
  • 航空会社の手荷物管理 3.2s(99.86%):1000回に数回の紛失や破損
  • ブランド力のある会社の活動や製品 5.7s (99.9999988%)100万個や活動に数回
  • 31年間に2秒しか遅れない時計 6.0s (99.99999980)
  • 航空産業の事故確率 6.2s (99.999999943%)1億回のフライトで数回

Sigma(σ)は、統計分布での標準偏差に使われる記号です。σの幅の何倍の幅まで信頼性が高いかという示し方が、上記の3.0sとか、6.0sなのです。上のリストを見ると、1000回に数個の製品や数回のサービスに不具合や間違いがあるのが、3シグマの品質です。感覚的にも、航空会社で荷物がなくなったり破損したりする頻度は多いなと感じますね。ちなみに、私はこれまで2回荷物がどこかにいって、2回壊されました。けっこう確率高いです。

ところが、航空機事故は非常に少なく、1億回のフライトで数回というレベルです。もちろん、それぐらいでないと、もっと限りなく高くないと困ります。ブランド製品や会社も信頼性が高いということが、一番の指標ですから、同じレベルであることがわかります。この例のように、6シグマ・レベルであれば世の中から、信頼性の高い企業・製品であると認知されることがわかるので、企業活動の品質を向上させる考え方や手法をシックス・シグマと称して、古くはモトローラ、GEはじめ数多くの企業が経営手法の一つとして取り入れています。最高・安定・安心の指標をシグマで表しているということができます。ちなみに、日本では、目指す目的は同じなのですが、シックス・シグマとは別のアプローチである、タグチ・メソッドという方法が多くの企業で活用されています。

さて、iPhoneの例に戻って、皆さんご自分で、何シグマぐらいの信頼性だろうかと想像してみてくださいね。Appleは決して明かさないと思いますので。ちなみには、私は過去iPhone3の時には、2回連続不具合が起こって交換してもらいましたが、その後は経験していません。

ここまで読んで気づかれた方も多いかもしれませんが、ロバスト設計と書いてきた内容ではあるのですが、シックスシグマの意味は実は、信頼性設計に相当するのです。ロバストであることは信頼性をも包含するのですが、信頼性が高いからといって、性能がロバストであるとは限りません。シックスシグマは不良率を少なくすればいいということを言っているので、実は、信頼性の向上を意図しているのです。

【SIMULIA 工藤】

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