【デザインとシミュレーションを語る】29 : ”歯車と棒”でわかるシミュレーションにおけるパラメータ同定

ダッソー・システムズ ブログ
【デザインとシミュレーションを語る】

 

第4章 計算精度とパラメータ同定 -”歯車と棒”でわかるシミュレーションにおけるパラメータ同定

 

「ネットのニュース」にとてもユニークな記事が紹介されていました。“ディズニーのエンジニアが歯車と棒だけで動物の動きが驚くほど自然に再現できるデザイン・ソフトを開発”というタイトルにピンときまして、動画を見て、したり!と思ったのでした。シミュレーションで避けては通れないパラメータ同定というテーマの応用の一つである、「目標値への合わせこみ」を実施している(に違いない)とてもわかりやすい例だったからです。ともあれ、まずは、下記に引用してあるニュースの動画(5分ぐらいです)をご覧ください。

http://jp.techcrunch.com/2013/09/18/20130917disney-researchers-create-a-way-to-make-geared-figures-that-look-amazingly-life-like/

 

いかがでした?タイトル通り歯車と棒だけで、滑らかな動きがいともたやすく再現できることに驚きませんか?動画説明の順番がわかりやすいので、簡単におさらいしてみましょう。

 

①    20秒あたりに“Parameter Space Exploration”というタイトルとともに、歯車の径、位置や棒の長さと結合位置を変化させると、終点のカーブが変わる場面がでてきます。歯車の径、棒の長さ、結合位置というパラメータが決まると、動作シミュレーション(といってもこの場合簡単な幾何関数ではありますが)が行われ、その出力値であるカーブ座標が得られるということです。順問題として見ていることになります。

 

②    40秒のところからは、“Assembly Database Curve Queries”とあり、カーブを包含する領域をざくっと決めるとそれを導く歯車の棒の組み合わせが出現します。ここには事前に用意されたライブラリからふさわしいモデルを選択するAI的な機能とDBがあることをうかがわせます。まずは大ざっぱに”モデルを選択する”というステップになります。絞り込みのプロセスと考えていいでしょう。

 

③    1分5秒の画面に、”TARGET CURVE”というタイトルとともに、赤いターゲット曲線に正確に合うように歯車の大きさや位置、棒の長さを変化させる様子が出てきて、1分48秒あたりまでいくつかのパターンが示されています。ここが、まさにパラメータ同定、いわば逆問題を解いているところです。ここのからくりは、TARGET CURVEと与えられたモデルの曲線との面積差分を計算し、その面積が最少(すなわちゼロ)になるような、歯車の位置と径、棒の長さ、結合位置というパラメータを、最適化アルゴリズムで求めるというロジックになってるはずです。

 

④    1分50秒からは、犬が走る足の動きの軌道形状を設定する様子が見られます。“Phase Shift Manipuration”で四足のタイミングを合わせるために、ギアじょうの開始位置を調整しています。2分30秒からはいろんな動物のうごく様子が示されていて楽しいです。

 

コメントを引用しましょう。

 

デザイナーは動かそうとする部品のデザインを入力し、続いていくつかの点を指定して、それぞれのの大まかな動作曲線を描く。ソフトウェアはデータベースからその動作を実現するもっとも近い歯車と連接棒の組み合わせを提示する。デザイナーはその後シミュレーション機能を用いて修正を加え、所望の動きを正確に実現するメカニズムを完成することができる。

 

数式は簡単ですし、パラメータは歯車の位置と径、棒の長さ、結合位置ぐらいなので、高々7~8個、最適問題としては簡単な部類です。数十回ぐらいの最適探索計算であっという間に解けてしまうはずです。シミュレーションを仕事で活用されている方にとっても、たいへんわかりやすいパラメータ同定の例だと思うのですね。歯車と棒の動きを、シミュレーション・ソフトに、TARGET CURVEを実験結果や目標性能と置き換えることで、アナロジーとしてはまったく同じ考え方で適用できてしまいます。

 

ただ、実際の設計問題はもちろん、パラメータは多いし、計算時間はかかるし、合わせ込むケース数もたくさんありますから、そう単純ではないと思いますが、実用として使われているシミュレーション・モデルには、必ずこの技術が一度は適用されているということを、お伝えしておきたいと思います。それは、開発ベンダーが実施して標準モデルやライブラリとして提供されている場合もあれば、社内のエキスパートが苦労して実施する場合もあれば、誰かがどこかで行っています。実験と(それなりに/ある程度/かなり厳密に)合うという検証を経て使われているのです。

 

この記事を、前々回と前回といっしょに読んでいただけると、紹介した事例の素晴らしさと面白さがわかると思います。

 

【デザインとシミュレーションを語る】27 : シミュレーション(CAE) の精度向上という根本問題ーその1

【デザインとシミュレーションを語る】28 : シミュレーション(CAE) の精度向上という根本問題ーその2

【SIMULIA 工藤】

 

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工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤はCAE分野で38年の経験を持つエキスパートとして、CAE開発・販売、HPC活用・マーケティング、最適設計・ロバスト設計市場開拓などを経験し、現在はシミュレーションを活用した設計業務改革コンサルと自身のノウハウ形式知化に取り組んでいます。
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