【デザインとシミュレーションを語る】26 : 100倍性能の高いコンピュータがあったら?―森と木の視点

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【デザインとシミュレーションを語る】

 

第3章 設計探索とトレードオフ -100倍性能の高いコンピュータがあったら?―森と木の視点

 

コンピュータの最大性能はだいたい10年で1000倍のオーダーで向上しています。ちょうど10年ごとの時代区切りで30年前のMegaの時代から始まり、20年前のGigaから、10年前のTeraの時代を経て、最近はPetaの時代に推移しているのでわかりやすいのです。日本の最速コンピュータ「京」の次世代機では、5年以上のスパンで100倍の性能を目指すとのことですので、これまでの推移とも合っています。では、もし目の前に100倍性能の高いコンピュータがあったら何をしたいかと問われたら、立場によって随分違ってくるだろうと考えて、以下のような推測をしたことがあります。

 

・木を見る視点
地球全体の気候シミュレーション、量子力学、材料物理、高分子計算、宇宙、超高精度の空気力学、航空機エンジン、など巨大スケールの問題はたくさんあり、これら最先端の問題を解くという使命においては、これまで解けなかった問題が解ける、見れなかった現象が見れる、精度が飛躍的に高まる、ということが優先すべき価値になります。100倍のモデルを作成し、精度を高めたい、もっと詳細に現象をシミュレーションしたいと思うのが、多くの研究者の立場であろうと思われます。

 

・森を見る視点
設計情報の多様さと判断スピードを優先したいという場合、いろいろなケースでシミュレーションを試して、正しい方向性を見極めることを、なるべく素早く、できれば電卓のように答えを出してほしくなります。設計者視点見方と言ってもいいでしょう。したがって、100倍のコンピュータがあれば、これまでと同じモデルのシミュレーションを100倍の組み合わせの設計案を検討したいと考えるのが、大方の設計者の要望ではないでしょうか。成熟した設計シミュレーション適用分野、特に概念設計や基本設計段階では、精度もスピードも十分になり、数千から数万といった大量の計算ケース数を実施して、その特徴や傾向を探るという森を見る視点の重要度が増してきています。この立場で活動している学会活動も活発になってきています。

 

・マルチ・スケール計算
昨今は、森と木の視点に留まらず、よりミクロの材料レベルの世界から、より大規模なモデルでの計算にまだつなげていく、マルチスケールの重要性も大きくなってきています。理想的なマクロ材料特性を実現させるための、斬新な合金組成や構造とその製造方法をシミュレーションで確立する手法は、様々な分野で着目されており、特に、ジェットエンジン設計の世界ではすでに実現されています。材料の最適設計=>高精度な部品レベル解析=>エンジン丸ごと定常シミュレーション=>エンジン丸ごと非定常シミュレーション=>航空機体一機とエンジンの統合計算=>航空機編隊でのシミュレーション、という具合に計算スケールを大規模化していく構想が進んでいます。いわば、シミュレーションにおける「Powers of Ten」の世界です。

 

どんなスケールのシミュレーションでも精緻に設計計算できる「Powers of Ten」のようなマルチスケール世界と、森と木の複眼視点が同時に実現できたらどんなにすばらしいでしょうか。それには途方もない計算機のスピードと規模が必要になります。コンピュータ性能のニーズは永遠に続くのは確かです。

 

【SIMULIA 工藤】

 

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【デザインとシミュレーションを語る】第二十三回 : 最適解は失敗の学習結果
【デザインとシミュレーションを語る】第二十四回 : ”設計とは逆問題”のココロは?(1)-森を見る利点
【デザインとシミュレーションを語る】第二十五回 : ”設計とは逆問題”のココロは?(2)-解空間から設計空間を絞り込む

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤はCAE分野で38年の経験を持つエキスパートとして、CAE開発・販売、HPC活用・マーケティング、最適設計・ロバスト設計市場開拓などを経験し、現在はシミュレーションを活用した設計業務改革コンサルと自身のノウハウ形式知化に取り組んでいます。
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