【デザインとシミュレーションを語る】22 : Optimization、Trade-off、Synthesis

ダッソー・システムズ ブログ
【デザインとシミュレーションを語る】

 

第3章 設計探索とトレードオフ -Optimization、Trade-off、Synthesis

 

「設計探索とトレードオフ」という第3章のタイトルの根幹になるテーマについて、言葉のニュアンスも考えながらお話しましょう。

 

Optimization(最適化)というと、すでにベストな答えがあってそれを見つけさえすればいというような、既存感があるような印象です。「安易に使うと誤解を招く言葉“最適化”」という以前の記事でも書いたように、状況が変われば最適解も変わるのです。選ばれるべき答えは実は、たくさんあって、最適解のなかからさらに探索する必要があります。

 

次に、Trade-offになると、選択肢が広がるという意味は加わるものの、どれかを優先すると、他を“犠牲”にするという極端な選択を行うようなイメージがありませんか。あるいは、目的のために妥協するというような意味合いがありますね。実態はそうなのですけれど、なにかしっくりこない感が伴います。

 

そこで、出てくるのが、Synthesisです。日本語訳を見ると統合とか合成という言葉が出てきますが、それだけではちょっと違う感じです。調和を保ちながら合成(つくりあげる)という意図がふさわしいように思えます。実は、これこそが、本来設計問題の意思決定をする際の、一番本質を表している言葉のように思えるのです。

 

一方、日本語には、“すり合わせ”という独特の言葉があって、自動車産業などの競争優位を示す際によく使われますが、“すり合わせ”には、“匠”という言葉と同様、かなり属人的な匂いが残っていて、合理的、サイエンス的なアプローチを拒んでいるような気配があります。

 

一方は、Synthesisには合理性がしっかり組み込まれていて、サイエンスがとてもよく合うように思えます。決して言葉の遊びではなくて、文化・仕事の仕方に対する表現がそのまま現れているように思うのです。飛躍するようですが、この差異は、Systems Engineering思考がいまだに日本に定着していない、あるいは出遅れている、一つの理由のようにも思われます。このことは、あとで何度か書くでしょう。

 

欧米の先進的な企業では、このような分野を専門にしている部署がけっこうあります。単にITとかCAE(Computer-Aided Engineering)ではなく、Optimization Groupのような部署は何度か見ましたし、Optimization & Synthesis という部署の名刺を一度みました。このSynthesisというおよそ部署名らしからぬ詩的な言葉を目にしたとき、非常に印象に残り、その意図するところをいただいた方に詳しく伺って以来、Synthesisという言葉が頭を離れなかったのです。設計の目的は、どの国も変わらないでしょうが、部署名にこんな名前を使う企業には、その方法論においては勝てないだろうと強く思いました。

 

ちなみに、その企業の名前は、….. 意外にも大きく伝統的な企業なのですけれど。

 

【SIMULIA 工藤】

 

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工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤はCAE分野で38年の経験を持つエキスパートとして、CAE開発・販売、HPC活用・マーケティング、最適設計・ロバスト設計市場開拓などを経験し、現在はシミュレーションを活用した設計業務改革コンサルと自身のノウハウ形式知化に取り組んでいます。
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