【デザインとシミュレーションを語る】19 : 設計空間でシミュレーションを考える

ダッソー・システムズ ブログ

 

第3章設計探索とトレードオフ -設計空間でシミュレーションを考える

 

シミュレーションの効用は、可能な限り検討可能な範囲、すなわち”設計空間”を幅広く多様な組み合わせで探索して、よりよい設計パラメータを見つけられることにあります。一方、設計の視点から見てみると、「設計とは、設計パラメータとその上下限値で規定される設計空間を絞り込んで、最終的に1点の設計解を導くための意思決定行為」ということができます。まさに、シミュレーションの効用と設計目的とが一致するわけです。シミュレーションの役割は設計案の探索で、それを評価し意思決定するのが設計の役割になるわけです。シミュレーションは設計情報の供給者、設計は判断者ですね。シミュレーションによるサンプリングが重要なわけは、探索に加えて、設計空間の絞り込み情報を提供できるからなのです。この効用を三つ記します。

 

1)各応答ごとに変数の寄与率(あるいは、感度)を求めることができる=>次元の削減

重要な変数が何か、逆に重要でない変数を知ることができますので、重要な変数だけに絞ってこの後の探索を進めることができます。このことはとても重要で、例えば10個の変数の設計問題は10次元空間の探索になりますが、重要な変数5個に絞って探索できたとすると、5次元空間にまで狭めることができるということです。探索とは、設計空間をいかに効果的に絞り込んでいけるかということですので、寄与率検討による次元の低減はたいへん大きな成果になるのです。

 

2)探索空間の上下限値を絞り込むことができる=>範囲の削減

最適解探索の場合には、重量最小、電力量最小、速度最大、燃費最大など、性能指標の最適化の方向と、各応答に最大値や最小値制約を設定することでよりよい解を定義し、探索します。サンプリングの段階では、全貌をなるべく多様な組み合わせで把握することが重要なので、どれを最小にするとか最大にするとかを決める必要がありません。あくまで、最適解探索のための事前調査という位置づけですから、どの指標を最大/最大にするか、応答値の制約条件をどういう値にするかは、サンプリング結果を見てから決めることができるのです。むしろ、そのためのサンプリングなのです。

さらに重要なことは、興味のある応答値の上限や下限を決めることで、設計パラメータの上下限値を絞り込むことができる点にあります。上記の1)では、設計パラメータそのものを減らすことで設計空間を絞り込みましたが、この2)では、設計パラメータの範囲を必要かつ十分な範囲に狭めてあげることで、この後の最適解探索の設計空間を絞り込むことができるのです。要は、無駄な探索をしないで済むのが、サンプリングのメリットの一つなのです。

 

3)近似的な関数で応答空間を表現することができる

三つ目は、絞り込みではないのですが、サンプリングの大きな副産物とうことができます。詳しくは後ほどどこかの記事で紹介することになるかもしれませんが、大体のところをご説明しましょう。サンプリング点の数がそれなりに揃うと(多ければ多いほうがいいですが)、それらの点群をなるべく近く通過する数学的な曲面関数を定義することができます。多項式がもっともポピュラーですけれども、ガウス分布やニューラルネットを使うなどさまざまな関数が提案されており、それらの関数を組み合わるための係数を、最小二乗法などで決めて、点群で網羅される多次元形状をもっとも正しく表現する関数を求めることができます。

近似的関数ではありますが、このモデルの精度が十分に高ければ、新たにシミュレーションを行わずに、この近似モデルから応答値を瞬時に計算できてしまうので、大量の探索計算(数百~数万回)を行いたい場合には、近時モデルを使うのが極めて有効、もしくはこの方法しかないという場合があるのです。昨今は、さまざまな近似モデルが研究・提案されていて、現象によって使い分けるなどすることで精度が十分に保証されるようになっていることから、近似モデル(Approximation Model)という呼び方から、直接シミュレーションを代替するという意味で代理モデル(Surrogate Model)という呼び方に変わりつつあります。サンプリング計算はこの代理モデルを作成するための必須手法なのです。

 

さて、もう一度設計行為の定義「設計とは、設計パラメータとその上下限値で規定される設計空間を絞り込んで、最終的に1点の設計解を導くための意思決定行為」を振り返ってみましょう。設計解を絞り込む行為は、サンプリング結果を吟味することですから、空間を狭めながら、何段階かのサンプリングを繰り返していけば、おのずから、意図する設計解に近づいていくことは自明でしょう。

その手続きを手動で繰り返すこともできますし、ある程度の範囲になったら、自動で探索させることの方が楽になるでしょう。これが、最適化アルゴリズムを利用することなのです。上記で記したような方法でサンプリング結果を十分に分析・吟味した後に、最適解探索を行うことで、選択された解の意味や位置づけを十分に理解できることになるという、その価値=いきなり最適化探索を行ってはいけない理由がおわかりいただけたでしょうか。

 

【SIMULIA 工藤】

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工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤はCAE分野で38年の経験を持つエキスパートとして、CAE開発・販売、HPC活用・マーケティング、最適設計・ロバスト設計市場開拓などを経験し、現在はシミュレーションを活用した設計業務改革コンサルと自身のノウハウ形式知化に取り組んでいます。
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