【デザインとシミュレーションを語る】18 : サンプリングって、偵察のことです

ダッソー・システムズ ブログ

第3章設計探索とトレードオフ -サンプリングって、偵察のことです

 

(前回からの続き)

いまでこそ、最適設計技術はかなりポピュラーになり、ツールや機能も豊富にありますが、1997年~2000年ごろ、「最適設計支援ソフト」という標語でソフトウエアを紹介し始めて、すぐに気付いたのは、聞く人に二つのタイプがあるということでした。

 

一つは、少数ではあるものの最適化アルゴリズムを自分で書いたり、試したりしたことのある人で、そんなに簡単に最適解は探せない、初期値によって最適解が異なる、計算回数が増えて困るなど、どちらかというといい経験を持っていないので、最適化探索とはこういうものだという、固定観念を持っていました。その正反対の、最適化技術に関する初心者に共通するタイプは、いままでの設計よりもいい解が必ず見つかるのか、最適解ということを保証してくれるのか、これまでと同じ解しか出なかったら意味がない、など“最適解の結果のみに期待する偏った見方でした。

 

結果だけを期待すると、良ければ妄信、悪ければ諦めるだけで、その後の検討にも展開にもつながらず、いいことは全くないのです。これら双方の見方を改善するには、結果ではなく探索プロセスに主眼を置いて、柔軟に考えることなのです。ともすれば、最適解を求めることだけを目標にするとそのことを忘れがちになりますが、答えが良くても悪くても何故なのかを問うことが大切で、さらにいいのは、何故を事前に問うことなのです。

 

これを解決する方策は、いきなり最適解の探索を実施することを、直ちにやめることなのです。新しいことをするのに、何も調べずに行動をする人はいません。お客様のことを知らずに営業に行くのは追い返されに行くようなものです。戦争で偵察を行わずに、いきなり攻めに行くことは無謀です。十分すぎるほどの調査や偵察が、その後の行動への合理性を決め、リスクを小さくするのです。この当たり前のことを、最適解探索の前に適用するのが、実験計画法などのサンプリング手法なのです。サンプリングというのは、探したい設計空間をはるべく広範囲に、偏らずに、設計パラメータのさまざまな組み合わせを決めて、それらの解を求め、空間全体の様子を探る方法なのです。サンプリングの組み合わせを自動で計算してくれるアルゴリズムは用途によってさまざまありますので、変数の種類や数、上下限値の幅、個数、後処理や分析などで適切なものを選ぶことができます。

 

共通しているのは、サンプリング結果から、各応答ごとに変数の寄与率や感度を求めることができるということです。寄与率というのは、どの変数が重要かそうでないかを定量的な%で示してくれます。感度は、変数を変化させたときの応答値がどの程度良くなるか悪くなるかを示す指標です。偵察する以上は、偵察しただけの情報を収集できないといけないわけですから、この寄与率と感度がその情報ということになるのですね。サンプリングの効果には他にも大切なことがあるのですが、それは次回に紹介します。

 

さて、考えても見ましょう。熟練エンジニアは過去の設計経験という十分なサンプリング結果を(それとは意識せず)持っていて、それを踏まえて新たな問題に対するより良いサンプリング点を求めていると解釈できます。それを”勘と経験“という表現だけで納得してしまうのはちょっと単純な見方かもしれません。実は経験に裏付けられた合理的なサンプリング結果をもとにしながら、サンプリング結果にない組み合わせでさえも経験で内挿や外挿で導いている、というのが正しい理解ではないかと思うのです。そのような熟練者の経験を、非熟練者がより短期間で真似をし学習する方法が、シミュレーションを活用したサンプリングの価値だと考えれば、サンプリングをもっともっと利用したいと思いませんか。

 

【SIMULIA 工藤】
バックナンバー

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【デザインとシミュレーションを語る】第四回:シミュレーションは緻密な統合技術
【デザインとシミュレーションを語る】第五回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(1)
【デザインとシミュレーションを語る】第六回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(2)
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工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤 啓治 (Keiji Kudo)

工藤はCAE分野で38年の経験を持つエキスパートとして、CAE開発・販売、HPC活用・マーケティング、最適設計・ロバスト設計市場開拓などを経験し、現在はシミュレーションを活用した設計業務改革コンサルと自身のノウハウ形式知化に取り組んでいます。
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