建築・建設March 9, 2015

【建築・建設業界コンテンツ】4: 構想からファブリケーションまで~Morphosis Architects社のKerenza Harris氏が説く パラメトリック設計の価値~

1972年創立のMorphosis Architects社の社名は、「形態の形成、またはその過程」を意味するギリシャ語に由来します。それは、同社の「進化するダイナミックなデザインワーク」を言外に示していますが、今日では、同社のパラメトリック設計ツールの革新的な活用法にも当てはまるかも知れません。
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1972年創立のMorphosis Architects社の社名は、「形態の形成、またはその過程」を意味するギリシャ語に由来します。それは、同社の「進化するダイナミックなデザインワーク」を言外に示していますが、今日では、同社のパラメトリック設計ツールの革新的な活用法にも当てはまるかも知れません。

Kerenza Harris氏は、2008年に同社に入社して以来、この新しいテクノロジーをデザインワークへと発展、統合させる重要な役割を担ってきました。現在、同氏はMorphosis Architects社で、初期の構想設計からファブリケーションまでを統合する自動システムとパラメトリック・ツールの開発に従事しています。

高まる期待 施主、ファブリケーター、建設会社は、これまでよりも早い段階で、非常に具体的な情報を求めています。「それは、ちょっとした課題です。なぜなら、より早い段階に、さらに複雑なモデルを作成しなければならないからです」とHarris氏は述べます。

さらに、一部の施主は設計プレゼンテーションの評価基準として高度なモデルを期待し始めています。モデルを使用することで、施主にプロジェクトの計画を正確に説明することが、今までになく容易になったと同氏が指摘するなかで、設計者と施主の関係性に対する新たな期待も生まれています。

変換作業による混乱 このようにプロジェクトの初期段階にモデルを高度化することで、プロセスの後半で課題が生じることもあります。たとえば、モデルを別の形式に変換する必要がある場合などです。 「私達が、建設会社、ファブリケーター、施主を問わず、誰かとコミュニケーションをとらなければならない場面では、必ず変換作業が伴います」とHarris氏は説明します。

このような変換が行われる場合、組み込まれた情報が変換作業による混乱で失われるリスクが常にあります。建設会社とコンサルタントに同じソフトウェアで作業してもらい、より緊密なコラボレーションを奨励することで、このような混乱を減らすことができます。

パラメトリック設計におけるインテリジェンス 初期の段階から詳細な情報を組み込めることがパラメトリック設計の利点であると、Harris氏は述べています。スタート時点から1つのプログラムを使用することで、履歴を持ったインテリジェント・モデルを創り出します。

「私達の作業は、線、サーフェス、平面、ソリッドなどのシンプルな形状から、部屋、建物、ドア、窓のような構造へと進んでいきます。先に進むにつれて、たとえば窓の場合、特定の寸法や共通規格などの追加情報を組み込みます。アイデアが具体化されるにつれて、建築は形を成していくのです」と同氏は語ります。

ここに至るまでの工程で、モデルにはファブリケーション手順や具体的な資材、据付けプロセスなどへの紐づけが可能な「インテリジェンス」が取り込まれます。変更が必要になった時に、これがひときわ重要な意味を持つこととなる、と同氏は強調しています。

暫定的な情報をモデルに取り込んでいる場合でも、その後、更新された情報を適用し、モデルを最適化することが可能です。

ツールで設計を実現 Harris氏が現在教える学生達、さらに前職のテキサス工科大学で教えていた学生達に、なぜ具体性が必要なのかを説明する際に、CATIAのようなツールは非常に役立ちます。 このようなソフトウェアによって、学生達はシンプルな形や形状を使って作業を開始し、やがてその形状を具体的な資材やシステムを持つ複雑なプロジェクトへと発展させることができます。

「こうして履歴を持つモデルを作成することで、一から設計し直さずに情報を追加することが可能になります」と同氏は指摘しています。

授業で適切なツールを使用することは、同氏が「夢の計画」を、未来の具体的な建築へと移行させることの重要性を学生達に強調する上でも役立っています。

「計画は完全でなければなりません。それを発展させ、実際の形にするには、こうしたツールを使用する必要があります」とHarris氏は語り、次のように付け加えています。

「そうすることで、私達は最終的に多くの建設プロジェクトを完成させることができます。それは私達が、資材や据付け、そしてこれらの要素の具体性を強く意識しているからです。夢の計画とそれらの要素の具体性を結びつけることができれば、完璧です」。

夢の計画の実現 AIA(アメリカ建築家協会)は、Harris氏の理念に賛同しているようです。Morphosis Architects社は、同社が手掛けたダラスのペロット自然科学博物館で、AIA 2014 BIM AwardのStellar Architecture Using BIM部門とDelivery Process Innovation部門で賞を獲得しました。

ダラスのペロット自然科学博物館(写真提供: Roland Halbe氏)

Morphosis Architects社は、博物館の外装にパラメトリック設計ソフトウェアを採用しました。外装は、繰返し再構成されたプレキャスト・コンクリート・モジュールによって、極めて複雑な幾何パターンを形成しています。同ソフトウェアを使うことで、視覚的には無作為で予測不可能に見える効果を実現しつつ、実際はより効率的な建設と据付けのプロセスを可能にする、合理化されたプレファブリケーション・システムを実現しました。

AIAの審査員は、本プロジェクトについて、次のようにコメントしています。

「設計図のみならず製作図の工程でもBIMの活用法が際立っていたこと、さらにファブリケーションや設置の工程においては、他の方法では考えられないほどの短い期間で目標を達成しています。BIMによって、ファブリケーション、ドキュメンテーション、プロジェクトの実行が促進されていました。より良いプロジェクトを実現するため、自社のデジタルファイルを積極的に共有しようとする意思を感じました」。

作品の応募において、プロジェクトチームは、博物館の成功がこの統合プロセスにかかっていたことを明らかにしました。初期設計の正確さによって、チームは極めて詳細な3Dモデルを、施主、ファブリケーター、建設会社と共有することができ、そのモデルは製作図だけでなく設置される枠組みの作成にも使用されました。結果、予算内で、かつ予定よりも早く、世界に誇る博物館が竣工しました。

文:森脇 明夫 ダッソー・システムズ、建築・建設業界のグローバル・マーケティング責任者 革新的なリーン・コンストラクション・ソリューション・エクスペリエンスの立ち上げを主導、buildingSMARTのメンバー

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