【ビッグデータ、スモールリターン】農場主は膨大なデータを提供しているが、実践的で有益なヒントはほとんど得られていない

世界人口は今後30年以内にさらに20億人増えると予測されています。来るべき食糧危機を前に、農業関連企業は面積当たりの食料生産率を高めようと躍起になっています。土壌や作物に何が必要かを分刻みで把握し、それを担当者に正確に通知するセンサーを農場の隅々まで張り巡らすことができれば、この目標を達成できるかもしれません。しかし、理想と現実の間には大きな隔たりがあります。

 

国連の予測では、世界人口は2050年までに現在よりも20億人増え、97億人に達するとされています。増大する食糧需要の問題は、面積当たりの収穫量を増やすことで解決できるかもしれません。これに向け、種子、土壌、肥料、害虫、天気などに関する各農場特有のデータをリアルタイムで収集する方法の開発が現在進行しています。

 

農業機器メーカーやサプライヤーから穀物や土壌の専門家まで、多くの関係者が農業関連データの大量収集に乗り出しています。しかし現時点では、彼らには収集した生の数値データから具体的な提案を導き出すだけの高度な処理能力や分析力が不足しているため、農場主が手にできる利益はほとんどありません。

 

スイスの農薬・種子メーカー、Syngentaグループでイギリスのレディング地方を拠点にR&D情報システムのデータサイエンス部門を率いているGraham Mullier氏は、次のように述べています。「誰もがデータを集めています。機器メーカーも膨大なデータを収集し、それを利用しています。しかし、そのデータの何割が生産者に役立つかが問題なのです」

 

生産者に利益はあるか?

「農産業へのビッグデータ導入が遅れています。実施手順の中でその理由を探るべきなのに、それが抜け落ちているのです」と話すのは、Massey FergusonやChallengerなどのブランドを有する、米国を拠点とする農業機器メーカー、AGCOでグローバル・クロップ・ケア部門のバイスプレジデントを務めるMatt Rushing氏。「農場主がやりたいのは農業です。業務改善の有益なヒントを見つけ出すために、表計算シートや山積みのデータとにらめっこしたいとは思っていません。彼らが望むのは、サービスプロバイダにこれらの情報を実現できるような形にして提案してもらうことです」

 

Mullier氏は次のように述べています。「最初のステップは収集したデータを一般に公開し、データを蓄積したり分析したりできるようにすることです。オープンデータ運動や、GODAN(Global Open Data for Agriculture and Nutrition:農業と栄養学のためのグローバルオープンデータ推進組織)などの組織の設立は、人々が協力して問題を解決しようとしている実例でしょう」

 

「農場主がやりたいのは農業です。業務改善の有益なヒントを見つけ出すために、表計算シートや山積みのデータとにらめっこしたいとは思っていません」

MATT RUSHING氏
AGCOグローバル・クロップ・ケア部門バイスプレジデント

 

しかし、データを広く利用できるようにするだけでは十分ではありません。

 

「データの分類あるいは性質別の類型化を行わずにデータを公開することに大した意味はないことがわかってきました」と話すのはRich Wolski氏。彼はサンタバーバラにあるカリフォルニア大学コンピュータサイエンス学教授であり、農業分析用のオープンソースやハイブリッドクラウドの設計と導入の方法を検討するための研究プロジェクト、SmartFarmの共同ディレクターも務めています。

 

「われわれが出会った生産者たちは、この問題に非常に強い危機感を抱いています。データ分析の検討に長々と時間をかけることを彼らは望んでいません。計画表の作成を急ぐ必要があります。簡単そうに思われるでしょうが、統計モデルを精査して、必要なデータとそうでないものを仕分けするのは容易なことではありません」(Wolski教授)

 

精密農業:瞬間的なデータの捕捉

AGCOのRushing氏によると、ビッグデータが農業のやり方を変える可能性があることは、精密農業の影響力を見れば明らかです。この農業形態は目に見える利益をもたらすことから、広く採用されるようになってきました。

 

デジタル農業と同様に、精密農業もIT、GPS、センサー、土壌サンプリング、ソフトウェア、テレマティックスなどの手段を駆使して種子、水、肥料、農薬の最良の組み合わせを割り出し、「4つの適切性」—-適切なものを、適切な量で、適切な時期に、適切な場所に実施することを可能にします。一方、デジタル農業と異なる点は、精密農業は測定時の状況に基づいて、特定の農業主に作業手順を提案できることです。精密農業ではある特定の瞬間のデータを捉えるため、次のデータ捕捉時までの間に状況が変化していることがあります。

 

 

しかし、Wolski教授の研究チームが現行のSmartFarmプロジェクトで実施しているのは、柑橘類の果樹園全面に常設のセンサーを取り付け、24時間体制で状況をモニターする方法です。このプロジェクトチームは、過去の気象データを統合することで、果樹園のどの辺りに霜が降りるかを事前に通知できるようにしたいと考えています。これが実現すると、生産者は果樹園全体ではなく、霜害の危険性の最も高い場所に重点を置いて、散水、ファン、ヒーターなどの対策を取れるようになります。

 

「霜の防止対策にはかなりの費用がかかるため、霜が降りやすい場所を特定してより集中的な対策を講じることができれば、コスト削減効果も大きいでしょう」(Wolski教授)

 

データ:農業の未来

現在はまだ、試験農場の外ではこのような24時間リアルタイムでデータを収集する技術を利用することはできません。

 

「この技術はまだ実用段階に達していませんが、分析モデルの将来像は見えてきました。ノースダコタの農場の皆さんとの共同作業で発見したことの1つは、農業上の問題の多くは地域、あるいはごく限定された農場特有のものだということです。カリフォルニアの問題を解決するにはカルフォルニアのデータが、ノースダコタの問題を解決するにはノースダコタのデータが必要なのです」(Wolski教授)

 

 

テキサス州カレッジステーションにあるテキサスA&M大学を拠点とする研究機関、AgriLife Researchのプログラムディレクターを務めるBob Avant氏は、次のように述べています。「多くの企業がさまざまな方法でデータ技術を農作業に応用しようと考えていますが、農場主は作物の世話に忙殺され、データの育成や収穫まで面倒をみる余裕はありません。」

 

「そこで私たちは、データ傾向を捉え、結論を導き出すことが可能な人工知能について本格的に話し合っています。データは農業の未来の根幹です。しかし、私たちはまだその道のりの途中にいるのです」(Avant氏)

 

著者: Keena Lykins

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