<ダッソー・システムズコーポレートマガジン>【伸びて曲がる】曲がって形を変えるエレクトロニクス製品が テクノロジーの応用範囲を拡大中

素材と3Dプリンティングの進歩により、動き、伸び、曲がることができるエレクトロニクス・デバイスが実現されてきています。これにより研究者は、新たな分野を拓き、日常生活を変える可能性を持つイノベーションを作り出すことができます。

 

 

患者のバイタルサインに変化があると医師が警告を受け、当人が病気だと気付く前に連絡を入れて、病気の経過や治療の見通しが伝えられる未来を想像してみてください。あるいは消費者が、スマートフォンを落としても画面が割れる心配をしなくてもすむという未来はどうでしょう。また、糖尿病患者が、いつ食事をしたかを検知する体内モニターを自分の胃酸で動かすときが来るかもしれません。

 

こうしたシナリオはどれも現実とはかけ離れているように思えますが、伸縮可能で柔軟性のあるエレクトロニクスの進歩のおかげで、実現の可能性がますます高まってきています。

 

米国マサチューセッツ州ケンブリッジのマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボで、Conformable Decoders研究グループのディレクターを務める材料科学者のCanan Dagdeviren氏は、「最近の材料科学と機械工学の進歩によって、柔らかくしなやかで、伸縮可能な高性能エレクトロニクス・システムを実現できるようになってきました」と述べています。

 

今ではよく使われるようになった多くのIoT対応デバイスと同様に、これらの曲がる伸縮可能な新しいエレクトロニクス・ソリューションは非常に手ごろな値段で、スマートフォン・アプリから管理することも可能です。企業も注目しつつあり、実際に、Grand View Research社による2016年のレポートによれば、柔軟性のあるエレクトロニクス分野の市場価値は世界全体で、2024年までに8,700万米ドル(7,500万ユーロ)を超えると推定されています。

 

8,700万米ドル

Grand View Research社が発行する2016年のレポートによれば、柔軟性のあるエレクトロニクス製品の市場規模は、世界全体で、2024年までに8,700万米ドル(7,500万ユーロ)を超えると推定されています。

 

割れない画面

カナダ、クイーンズ大学のヒューマンメディア研究所ディレクターを務めるRoel Vertegaal氏は、曲がる伸縮可能なエレクトロニクス製品が未来の画面の実現に貢献すると考えています。同氏のチームは、フルカラー、高解像度、無線対応の曲げられるスマートフォン、ヘッドトラッキング機能やメガネなしで3Dイメージを表示できる、曲げられるホログラフィー対応スマートフォン、ユーザー・インターフェースが円筒形のゲーム用リモコンといった、さまざまなイノベーションに取り組んでいます。

 

「柔軟性のある画面にはさまざまなメリットがあります。従来のエレクトロニクス部品よりも軽量かつ安価で、使い勝手の観点では、曲げることで立体的なインタラクションも可能になります。そのうえ、かなり壊れにくいのです。ひびが入った画面は遠からず過去のものになることも考えられます」(Vertegaal氏)

 

体の曲線

しなやかなエレクトロニクス部品の人への応用は、すでに具体化しつつあります。

 

米国イリノイ州エバンストンのノースウェスタン大学で機械工学と土木・環境工学の教授を務めるYonggang Huang氏は、「伸縮可能で柔軟性のあるエレクトロニクス部品は、従来のエレクトロニクス部品と同じ特性を保持すると同時に、人の体に合う任意の曲線形状にすることができます」と述べています。

 

Huang氏は、イリノイ大学の物理化学者かつ材料科学者であるJohn Rogers氏のほか、マサチューセッツ州に拠点を置くウェアラブル製品企業のMC10社と協力し、スキンケア分野の巨大企業L’Oréal社のために同社のニュージャージー州テクノロジー・インキュベーターで伸縮可能なエレクトロニクス・デバイスを開発しました。肌に貼り、NFC(Near-Field Communication)を介してアプリとペアリングするこのデバイスには、紫外線にさらされると色が変わる感光性の染料が含まれています。L’Oreal社は、このアプリを使用する人の60%が日焼けを減らしていて、30%がより多くの日焼け止めを使っていると述べています。

 

同時に、MC10社はベルギーに拠点を置く生物薬剤学企業のUCB社と提携し、パーキンソン病の状態をモニタリングするために、データ収集センサーを皮膚に張りつけることができる方法を研究しました。UCB社バイスプレジデントで神経学分野の患者向け新規ソリューションをグローバルに管轄するErik Janssen氏は、「患者が体験していることについて理解を深め、その洞察を発展させて神経学的状態の管理を改善すること。そして、より優れた管理機能を患者に提供し、治療結果を改善できるようにすること」が焦点であったと述べています。

 

実用化への道

こうした成功があるといっても、柔軟性と伸縮性のあるエレクトロニクス製品の真の潜在力が実現されるのはこれからです。英国ケンブリッジに本社を置く市場調査会社のIDTEchEx社でシニア・テクノロジー・アナリストを務めるJames Hayward氏は、このタイプの部品は一部が概念実証の段階を過ぎたとは言え、多くの部品がまだ未成熟だと述べています。

 

Hayward氏は、「現在でも、伸縮性があり形を変えられるエレクトロニクス製品は、いくつか実用化されています。しかし、それらは概して個別のニッチ市場向けの実用化であり、成長と拡大を遂げるには連成がもたらす効果が必要です」と述べています。

 

東京大学の電気電子工学コースの教授、染谷隆夫氏は、さらに高い弾力性を実現することに精力を傾ける必要もあると考えています。

 

 

「現在利用できることが分かっている伸縮可能なイノベーションのほとんどで若干の硬度が残っています。これは、しばしば充電用バッテリーやワイヤーの必要性から部品が複数になり、それが固いシリコンの外被に入れられるためです。耐久性があると同時に柔らかいソリューションを生み出すことが課題です」(染谷氏)

 

MITメディアラボのDagdeviren氏も同意見で、次のように述べています。「現在のエレクトロニクス部品の硬さは、柔組織よりも最大6桁(十万倍)上回っています。結果として、エレクトロニクスと生物学を統合したいときには、物理的な幾何学的形態が不適切な組み合わせになるので、それに関連する難しい課題が存在します」

 

プリンティング方式のソリューション

ミズーリ科学技術大学で機械・航空宇宙工学の助教を務めるHeng Pan氏は、3Dプリンティングに答えがあると考えています。

 

R&D Magazine誌の最近のインタビューで、Pan氏は次のように述べています。「アディティブ・マニュファクチャリングでは、素材を簡単に変更でき、1回のプリントで様々な異なる素材をすべて使用できるというメリットがあります。ほとんどあらゆる素材で3D形状をプリントできます。エレクトロニクス部品の製作において、積層造形は非常に優れた長所を有していると考えています」

 

たとえば、マサチューセッツ州テュークスベリーにあるRaytheon Integrated Defense Systems社は、米国国防省のために柔軟性のあるプリンティング方式のエレクトロニクスの開発を促進するため、RURI (Raytheon社とマサチューセッツ大学ローウェル校の共同研究所)を設立しました。目標は、医療機器、テント、バックパック、車両、ビルの無線モニタリングに応用できる、伸縮性があり曲げられるデバイスを作成することです。

 

Raytheon社のシニア・プリンシパル・エンジニアであるMary Herndon氏は次のように述べています。「Raytheon社は産業界、政府、学界のパートナーと共に、プリンティング方式で作成する高周波機構の材料とプロセスを実用化することに取り組んでいます。サイズや重量に制約があるプラットフォームでは、柔軟性があり周囲のものに形を合わせることができるエレクトロニクス部品を用意できれば、より優れた統合が実現し、より目立たない組立品を生み出せると期待されています」

 

スマート型の太陽光発電ソリューション

ブラジルの企業、Sunew社は、3Dプリンティング技法を使用してしなやかな太陽光発電パネルのソリューションを製造しています。これはスマートなビル、都市、車両での利用が可能です。Sunew社の有機太陽電池(OPV)テクノロジーは耐振動性が優れているため、車両への適用の可能性が特に有望視されています。

 

Sunew社CEOのTiago Alves氏は次のように述べています。「今日、液体の半導体を入手できるようになったため、低温で、限界費用がゼロの連続的プロセスであるプリンティングが基本的な製造プロセスです。工場に必要とされる生産レベルに達するまでにかなりの投資が必要ですが、それがいったん達成されれば非常に効率的です」

 

Sunew社のOPVは、光電装置生産の従来の方法よりも優れています。「電力供給効率が従来のテクノロジーの約20倍で、投資回収期間は2年ではなく2ヵ月であるOPVパネルは、従来の太陽光発電パネルよりも50倍から100倍軽量でもあります」(Alves氏)

 

未来は「フレキシブル」か?

柔軟性のあるエレクトロニクス製品を実現できれば、飲み込める生分解性の半導体製品が進化することにもなります。たとえばMITの研究者たちはボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院(BWH)とチームを組み、胃の中の動きと摂取状況を感知できる柔らかいデバイスを開発してきました。このデバイスは少なくとも2日間胃の中に留まり、食事の摂取を感知して、消化管の動きからエネルギーを得ることができます。さらにそのエネルギーを、飲み込める新しいエレクトロニクス・システムの動力として利用できる可能性があります。

 

BWHの胃腸科専門医で生物医学工学者でもあるCarlo Traverso氏は、「FitBitのようなウェアラブル・デバイスが、人の歩数を追跡して定量化する助けになるのと同様に、私たちは、胃の中に留まって人が食べている頻度を定量化できるようなデバイスを構想しています」と述べています。このデバイスの一つの用途として、糖尿病を発症している患者のモニタリングが考えられます。

 

ボストンにあるハーバード・ビジネス・スクールの専門家が同様のイノベーションに取り組んでいます。

 

ハーバード・メディカル・スクールで医学の専任講師を務めるGiovanni Traverso氏は、次のように述べています。「柔らかく飲み込めるエレクトロニクス製品の領域で、大きな進展があると考えています。消化管内であれば、柔軟性のあるエレクトロニクス製品は動きの検知に応用できます。そのため、糖尿病を患う患者の胃の中で、問題点のモニタリングや識別を行うことができます。また、そうしたシステムは摂取状況のモニタリングにも応用できます」

 

「FITBITのようなウェアラブル・デバイスが、人の歩数を追跡して定量化する助けになるのと同様に、私たちは、胃の中に留まって人が食べている頻度を定量化できるようなデバイスを構想しています」
CARLO TRAVERSO氏ブリガム・アンド・ウィメンズ病院 胃腸科専門医兼生物医学工学者
東京大学の染谷氏は、そのような応用は、柔軟性のあるエレクトロニクス製品がここ何年かのうちに実現する可能性の端緒にすぎないと信じています。

 

「中期的には、健康状態が深刻な患者さんで、この種のセンサーを使用して心拍数、呼吸数、血圧、体温、酸素濃度などの生体情報を監視することが考えられます。しかし最終的に、皆がこうしたデバイスを携帯する可能性もあります。結果として、自分が意識する前に、病気の可能性を見抜くことができます。これは世界全体にわたって、医療を提供する方法を一変させる可能性があります」(染谷氏)

著者: Michele Witthaus、Lindsay James

Comments are closed.