【データのサイロ化との戦い】データを集める仕組みは無数にあるものの、サイロ型のオペレーションが足かせに

ビッグデータ・アナリティクス、インダストリアル・インターネット(IIoT)、人工知能は家庭、都市、産業界に浸透しつつあります。しかしほとんどのインフラ企業はこれらの技術の価値をまだ十分に理解していません。大手インフラ企業は多方面で実験的な試みを行っているものの、従来のようなデータのサイロ化を排除した一体的なアプローチで取り組まない限り、効果的な経営に必要な知見は得られないと専門家は指摘します。 著者:Dan Headrick

 

南カリフォルニアの郊外都市フォンタナで、20名からなる有志の住宅オーナーが参加し、ある画期的なパイロットプロジェクトが行われました。その内容は、スマートホームが電力網のオペレーションノードとして機能できるかどうかを実証するものでした。各住居の屋根に設置した太陽光パネルで発電しながら、全体の需要応答や負荷シフトを管理させるのです。

 

インフラ企業の元役員で、現在は米国南東部で複数の会員制公益団体の取締役を務めるRandy Brecheisen氏はこう話します。「サーモスタット(温度自動調節機)を中心として、あらゆるものを統合できます。家電やガレージのシャッターなどをすべてサーモスタットのコントローラーに組み込むのです。私たちはあらゆるリソースを統合して情報を取得し、上流で活用する方法を模索しています。太陽光、デマンドサイドマネジメント(DSM)のリソース、電気自動車の可能性、配電と発電、蓄電池。これらすべてをリソースとして統合し、コントロールできれば、上流での発電と電力供給に有益な影響を及ぼすことができます」

 

“「この可搬性にAIが加わることで、状況に関連した情報が能動的に通知されるようになります」”

KEN HEPBURN氏
REALWEAR社マーケティング担当副社長

 

しかし、インフラ企業の投資獲得を目指すIT技術は現在急速に増えており、スマートメーターはその一つにすぎません。発電、送電、配電、負荷管理、さらには市場取引、小売価格の設定、消費、請求、貯蔵に至るまで、データは業界を動かす真のエネルギーになっています。インフラ企業は適応しようと躍起になってはいるものの、包括的な視野または経営能力につながるビジョンを持った企業はほとんどありません。

 

シンガポールに拠点を置くエネルギーコンサルティング会社、Teradata International社でプラクティスパートナーを務めるDavid Socha氏はこう語ります。「市場は混沌としています。気が付けばどこの企業もデータ会社であり、アナリティクス会社でもあります。ERPベンダー、スマートメーターベンダー、スタートアップ企業、かつて書籍のネット販売を手掛けていた会社でさえも、です。インフラ企業が参入をためらうのも無理はありません」

 

遍在するインテリジェンス

人工知能(AI)、センサーを利用したインダストリアル・インターネット(IIoT)によるデータ収集、データアナリティクスを組み合わせることによって生まれる可能性は想像を絶します。しかし、業界標準に採用されるのはどの技術か、最良のアプリケーションは何か、デジタル化に向けた発電・配電業界全体の取り組みにどう取り入れるのかなど、解決すべき課題はまだ山積みのままです。

 

クリーンテクノロジーの分析を手掛けるグローバル市場調査・コンサルティング会社のNavigant Research社によると、多くのインフラ企業は最低レベルのデータ収集装置であるスマートメーターから導入を進めているようです。Navigant社の報告では、中でもAMI(Advanced Metering Infrastructure)と呼ばれるスマートグリッド通信システムを備えたスマートメーターが、全世界で2016年末までにスマートメーター全体の約30%を占める見通しであり、その割合は2025年末までに53%に増えると予想されています。

 

例えば、スイスの発電・配電事業者Alpiq社は最近、ビルや施設の管理に特化したスマートメーターとAIアルゴリズムを発表しました。同社は電力網上の電気の消費量と負荷を継続的に計測し、天気予報も考慮に入れ、電気料金の追跡も行っています。また、長期的なデータパターンに基づき、家庭や商業ビルに設置された負荷制御装置ごとにユーザーの行動を学習します。

 

ドイツのフラウンホーファー研究機構が2017年に導入したスマートメーターは、そのさらに上を行っています。AIによる管理機能を搭載したこのスマートメーターは、単一のノードを通じて20もの家電機器と接続し、電気使用量を計測するだけでなく、それらの制御も行います。

 

フランス電力公社(EDF)傘下の配電事業者であり、フランス国内の電力網の95%を管理し3,500万人の消費者に電力を供給するEnedis社は、電気の使用を地域ごとに管理する目的で、データおよびアナリティクスプラットフォームに多額の投資を行ってきました。「Linky」と呼ばれる同社のスマートメーターは、変電所に設置されたコンピュータハブを通じてデータや指示のやり取りを行うことで、Enedis社が自動的に負荷を管理し、電力網の状態をより詳細に把握することを可能にします。

 

事業のデジタル化

スマートメーターは、需要のピーク時に電力会社が負荷を制限したり、消費者が自らエネルギーの使用を管理したりするのに役立つデータを提供する一方で、システムの安定稼働にはほとんど寄与しません。オーストラリアのニューサウスウェールズでは、国営の電力インフラ企業Ausgrid社が22,000人の作業員にデジタルフィールドデータ収集装置を支給し、この問題の解決に向けた検証を行っています。

 

53%Navigant Research社によると、AMI通信機能を備えたスマートメーターは、2025年末までにスマートメーター全体の53%を占めると予想されています。
作業員らは、この装置が収集したデータをもとに250以上の発電所、50万以上の電柱、3万以上の小規模配電変電所、地上および地中に張り巡らされた全長5万キロ近くの電線のメンテナンスを行います。その結果、Ausgrid社はエンドツーエンドの作業サイクルの生産性を平均72%改善することに成功しました。2016年1月に世界経済フォーラムがアクセンチュアと共同で発表したホワイトペーパー「Digital Transformation of Industries」によると、Ausgrid社は2025年までに600億米ドルもの節約を見込んでいます。

 

一方、カナダのインフラ企業Manitoba Hydro International社は、現場作業員向けのAVヘッドセットのテストを行っています。ヘッドセットが送信した位置情報とリアルタイムのシミュレーションを使用し、マネージャーは、遠く離れた場所にいながら問題のある設備を特定し、そのメンテナンス履歴を確認することができます。この情報は、修理方法に関する情報とともに現場の作業員に戻されます。同社の役員らは、パイロットプロジェクトの結果次第では同技術を他の業務にも適用したいと考えています。

 

米シリコンバレーに拠点を置き、カナダで現場作業員向けのヘッドギアをテストしているRealWear社のマーケティング担当副社長Ken Hepburn氏はこう指摘します。「私たちは今や世界中の情報をポケットに入れて持ち歩くことができます。この可搬性にAIが加わることで、状況に関連した情報が能動的に通知されるようになります。この流れを止めることはできません。問題はいつそれが実現するかということですが、おそらくかなり近い将来に実現するでしょう」

 

“「あらゆるアナリティクスの機会を支えてくれる機能、ツール、プラットフォームに投資しなくてはなりません」”

DAVID SOCHA氏
TERADATA INTERNATIONAL社プラクティスパートナー

 

スペインのインフラ企業Iberdrola社は、システム全体の情報を収集して活用する取り組みを進めています。スペインのトレドにある集中自動制御センターでは、機械学習、アナリティクス、ロボット工学などの技術を採用しており、作業員らはこれらとリアルタイムで連携しながら作業し、状態監視や予測的アナリティクスを行い、信頼性の維持に努めています。これらの機能は、220のウィンドファームで発電する7,000メガワット(MW)の電力、70の小規模水力発電所、9カ国に設置された6,000以上の風力タービンなど、多様なクリーンエネルギーを提供するIberdrola社にとって特に重要です。

 

例えば、約200万個のオペレーション信号を監視するセンサーを通じて得られた情報により、マネージャーはより確実に障害を検知し、タービンおよび制御システムの故障を把握できます。遠隔で予防措置を講じることができるため、運営費とメンテナンス費を削減できます。2016年の世界経済フォーラムのホワイトペーパーによると、Iberdrola社は現場での作業が減ることにより今後10年間で3,870億米ドルの費用を節約し、移動が減ることで炭素排出量を24億トン削減できる見通しです。

 

どこから始めるか

これらのインフラ企業はあらゆるレベルでオペレーションのデジタル化に着手していますが、適応に向けた業界全体の動きは鈍いと言わざるを得ません。

 

「ほとんどのインフラ企業がビッグデータや、広範囲にわたるあらゆる統合データ、アナリティクスの価値をまだ本当には理解していませんが、それには多くの理由があります」とTeradata社のSocha氏は言います。その最たる理由は、オペレーションをサイロ化(=縦割り化)された状態に留めておく傾向により、情報共有が妨げられていることです。個々のオペレーションは、他のオペレーションから比較的切り離された状態で進められます。

 

インフラ企業が利用可能なあらゆるスマート技術の恩恵を十分に受けるには、各オペレーションの隔たりを生んでいるデータサイロを壊し、一体的な運営体制を構築する必要がある、とSocha氏は指摘します。

 

しかし、「一体的」な組織の構築は、意思決定が分権化された環境では容易ではないかもしれません。インフラ企業は部門ごとに最適化された多くのシステムにすでに投資しているため、それらを単一ベンダーのソリューションに置き換えることは好ましくないのです。インフラ企業にとっては、サイロを排除しつつ、最善のアプリケーションをすべて連動させることができ、リアルタイムのデジタル連続性を可能にし、ユーザーに情報を探させるのではなく適切な情報を能動的にユーザーに提供するプラットフォームを模索するのが最善の道でしょう。

 

Socha氏はこう言います。「最初の投資先は、あらゆるアナリティクスの機会を支えてくれる機能、ツール、プラットフォームでなくてはなりません。戦略的に最大の機会は、データドリブン企業への道を進むことにあります」

著者: Dan Headrick

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