設計・シミュレーションMarch 14, 2018

【デザインとシミュレーションを語る】47 : 既存技術の組み合わせ探索

【第6章 想定設計を実現する】 既存技術の組み合わせ探索  
header
Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)
【デザインとシミュレーションを語る】

【第6章 想定設計を実現する】 既存技術の組み合わせ探索

新製品を開発する場合でも、新技術を使うのは10-20%で、大半の80-90%は既存技術が使われるとよく言われます。この80-90%を占める既存の製品や技術を再活用するのに、同じだけの時間とコストと人材を使っては、競争力が高いと言えないのは確かです。筆者のヒアリング経験では、既存設計を使うだけで100%のリソースを使い切ってしまい、新技術を開発する時間も人もお金もないという、極端ではありますが現実のケースにも遭遇しました。それほどではないにしても、既存技術の使いこなしが十分でないために、実は困っている方策がわからないという場合が、実に多いのです。

たとえば、典型的なのは、次の三つのパターンです。

1)過去の設計を流用、あるいは参考にできるはずなのに、できていない。(時間軸連携性の不備) 2)他の人が似たような経験をしているのに、生かされていない。(横軸連携性の不備) 3)製品が複雑なため、よりよい設計パラメータの組み合わせを逃している。(設計空間の見逃し)

上記の1)と2)は、設計やシミュレーション・・データの一元管理・共有・検索というテーマの問題です。これについては、別途解説する機会を設けます。

今回は、3)の設計空間での組み合わせを逃すというテーマに焦点をあてます。 改めてですが、既存技術というのは、過去製品、実績のある部品、成熟した技術といったことの総称としましょう。では、革新技術とはなんでしょうか?大半の方は、従来存在しなかった新しい技術のことをイメージすると思います。

ところが、既存技術からも、実は革新技術が生まれうるのです。それはたとえば、従来考えたことのなかった組み合わせの設計です。要素技術は既存であっても、それらの組み合わせが斬新であれば、製品全体として素晴らしいものが生まれるということです。

筆者が思い浮かぶわかりやすい例は、ゴルフ・ヘッドを最大速度にするためのシャフトの剛性(硬さ)の最適設計です。従来は、シャフトの均一な材料での半径と板厚で調整していた設計を、材料を可変にできる製造技術ができたことで、材料定数もパラメータにできるようになったのでした。シミュレーションから見れば、材料定数をパラメータにすることは新技術でもなんでもなく、モデルを変更すればできる当たり前のことです。ところが、それを製造技術に裏付けられた設計パラメータにしてしまうことで、製品としては画期的なものが出来上がったのでした。発想の勝利と言えるでしょう。

このように、これまで試されたことのない組み合わせや、”想定外”の組み合わせというのは、たとえ既存技術であっても、忘れられているか思いつかれない、十分に探索されていないために未発見のままである、といった可能性が十分にあるのです。数学的には、設計空間を十分に探索しきれていないというリスクの問題です。ましてや、そのうちの一つでも新しい部品や技術で入れかえるとなると、(新しい設計空間の登場により)、全く新しい解空間が出現することになるのです。

製品の部品数が多いほど、使用環境が多岐に渡るほど、制約条件が多いほど、設計空間と解空間は膨大になり、ベストもしくは最大限満足する設計解の集まりを、確実に獲得する方法がとても重要になります。しかも、このような既存技術の組み合わせを変えるだけとか、新しい技術を少し加えるというだけの場合が、80-90%を占めるのであれば、ここに時間とコストと人材を使わずに済む方法を徹底して構築するのは、競争力を高めるためには、当然のことでしょう。

パラメータ・スタディと最適化探索の方法が効果を発揮するのは、ちょっとした発想や思い出しをきかっけにして、発見が困難な組合せを徹底的に探索するこのような場面なのです。

【SIMULIA 工藤】

バックナンバー

【デザインとシミュレーションを語る】第一回:イントロダクション 【デザインとシミュレーションを語る】第二回:シミュレーションの分類 【デザインとシミュレーションを語る】第三回:シミュレーションは実験と比べて何がいい? 【デザインとシミュレーションを語る】第四回:シミュレーションは緻密な統合技術 【デザインとシミュレーションを語る】第五回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(1) 【デザインとシミュレーションを語る】第六回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(2) 【デザインとシミュレーションを語る】第七回:3D-CADは何のため? 【デザインとシミュレーションを語る】第八回 : CAE を志す人へのメッセージ(1) 【デザインとシミュレーションを語る】第九回 : CAEを志す人へのメッセージ(2) 【デザインとシミュレーションを語る】第十回: ソフトウエア・ロボットの誕生 【デザインとシミュレーションを語る】第十一回: 作業を自動化すること、その真の価値とは 【デザインとシミュレーションを語る】第十二回: “自動化を進めると設計者が考えなくなる?"への回答 【デザインとシミュレーションを語る】第十三回 : パラメトリック性の本質は新しい組み合わせ 【デザインとシミュレーションを語る】第十四回 : Zero Design Cycle Timeの衝撃 【デザインとシミュレーションを語る】第十五回 : 「設計とは最適化」の奥深い意味を教えてくれた技術者 【デザインとシミュレーションを語る】第十六回 : スーパーコンピュータで行われていた大量の計算とは 【デザインとシミュレーションを語る】第十七回 : 最適設計支援ソフトウエアの衝撃的な登場 【デザインとシミュレーションを語る】第十八回 : サンプリングって、偵察のことです 【デザインとシミュレーションを語る】第十九回 :  設計空間でシミュレーションを考える 【デザインとシミュレーションを語る】第二十回 : 安易に使うと誤解を招く言葉“最適化 【デザインとシミュレーションを語る】第二十一回 : 世の中すべてはトレードオフ問題 【デザインとシミュレーションを語る】第二十二回 : Optimization、Trade-off、Synthesis 【デザインとシミュレーションを語る】第二十三回 : 最適解は失敗の学習結果 【デザインとシミュレーションを語る】第二十四回 : ”設計とは逆問題”のココロは?(1)-森を見る利点 【デザインとシミュレーションを語る】第二十五回 : ”設計とは逆問題”のココロは?(2)-解空間から設計空間を絞り込む 【デザインとシミュレーションを語る】第二十六回 : 100倍性能の高いコンピュータがあったら?―森と木の視点 【デザインとシミュレーションを語る】第二十七回 : シミュレーション(CAE) の精度向上という根本問題ーその1 【デザインとシミュレーションを語る】第二十八回 : シミュレーション(CAE) の精度向上という根本問題ーその2 【デザインとシミュレーションを語る】第二十九回 : ”歯車と棒”でわかるシミュレーションにおけるパラメータ同定 【デザインとシミュレーションを語る】第三十回 : 1D-CAEの価値とパラメータ同定 【デザインとシミュレーションを語る】第三十一回 : Fidelityという概念とModel Based Designの関係 【デザインとシミュレーションを語る】第三十二回 : 品質に求める最高と安定と安心と 【デザインとシミュレーションを語る】第三十三回 : 製品ライフサイクルで考える不確かさと定量化の方法 【デザインとシミュレーションを語る】第三十四回 : 製品ライフサイクルで考える不確かさと定量化の方法 【デザインとシミュレーションを語る】第三十五回 : シックスシグマの意味 【デザインとシミュレーションを語る】第三十六回 : ロバスト設計の価値と方法論 【デザインとシミュレーションを語る】第三十七回 : タグチメソッドとシックスシグマ手法の使い分け 【デザインとシミュレーションを語る】第三十八回 : Simplicityという製品哲学 【デザインとシミュレーションを語る】第三十九回 : ミケランジェロは機能美を理解していた! 【デザインとシミュレーションを語る】第四十回 : 設計者の感性とは美しい設計=機能美-「風立ちぬ」を観て 【デザインとシミュレーションを語る】第四十一回 : 自然と工芸、科学と工学 【デザインとシミュレーションを語る】第四十二回 : 仕事の美しさと最適設計の美しさ 【デザインとシミュレーションを語る】第四十三回 : なぜ想定設計か、何を想定するのか? 【デザインとシミュレーションを語る】第四十四回 : Vプロセスにおける性能設計と機能設計の役割 【デザインとシミュレーションを語る】第四十五回 : Model Based Design (MBD)手法に隠されている本質とは 【デザインとシミュレーションを語る】第四十六回 : 想定要求と意思決定とは

読者登録はこちら

ブログの更新情報を毎月お届けします

読者登録

読者登録はこちら