設計・シミュレーションMarch 13, 2017

【デザインとシミュレーションを語る】43 : なぜ想定設計か、何を想定するのか?

  【第6章 想定設計を実現する】 なぜ想定設計か、何を想定するのか?   =========== 2017年3月7日に「第3回
header
Avatar 工藤 啓治 (Keiji Kudo)
【デザインとシミュレーションを語る】

【第6章 想定設計を実現する】 なぜ想定設計か、何を想定するのか?

=========== 2017年3月7日に「第3回 自動車技術のためのCAEフォーラム」にて、「手戻りゼロに向けたMBD活用による想定設計の実現」というタイトルで講演いたしました。本章ではしばらくこの講演内容をまとめるという形で記事を紹介していきます。 ===========

当初第6章を、“計算品質の標準化”というテーマでまとめる予定でしたが、はてと?手段と目的を間違えてはいけないとはよく言われていることですが、“計算品質の標準化”は手段であって、決して目的ではありえないな、と気づきました。このあとちょっと禅問答的な言葉が続きますが、少し我慢してお付き合いください。

計算品質の標準化が、何を目指しているのかとよくよく考えなおしてみますと、標準化を実現するシミュレーションの結果を保証し、設計者に正しい判断をしてもらうためだということだ、ということになります。結果を保証するというのは必ずしも精度が高いということばかりではなく、仮に多少精度に甘さがあったとしても、結果として正しい判断の根拠を与えればいいのです。

特に開発プロセスの早期段階での正しい判断とは、後工程での手戻りを発生させない素性の良い基本設計案を設計者が保障するということです。さらりと書きましたが、現状はここがうまくいっていないために、さまざまは不具合が後工程で生じています。たとえば、

  • 検討漏れにより、試作段階で何度も手戻り
  • 後工程での設計変更により、想定外の基本設計見直し
  • 目標性能が高すぎて、無駄な試行錯誤
  • 特定の性能達成を優先し、振動騒音問題が解決できず、無駄な重量付加
  • 市場や顧客の要望変更に対応できずに、競争力のない製品に

このような後工程でのトラブルは、基本設計の品質が悪いことが原因となっており、開発工程にもコストにも大幅な影響を及ぼします。すなわち、 “決定された設計情報のみを前提にして、状況把握と変更に対応できなかった想定の失敗”ということができます。

こういった不具合を生じさせないための素性のよい基本設計のあり方とは、たとえばこういうことではないでしょうか。

  • 抜け漏れのない要求検証を行う
  • 後工程での変動要因を想定しておく
  • 目標性能の割り付け案を幅広く検討しておく
  • 複合性能のトレードオフ性を事前検討しておく
  • 要求変更の可能性を想定しておく

これを実現するためのあるべき姿を、“様々な設計情報の変動可能性を想定しておき、そのための多様な設計案の組み合わせをシミュレーションで事前検討しておくことで、実現可能な設計案を常に選択できる状態”と定義し、「想定設計」と名付けたいと思います。この想定設計が正しく実現できれば、後工程での手戻りを限りなく減らすことが可能な、素性のよい基本設計案を提供できることになるでしょう。

今回は、私どもが提唱する「想定設計」という新しい概念を紹介しました。次回以降は、どうすれば実現できるのかという話になっていきますが、このブログをずっと読み続けてきた方々には、何が書かれるかだいたい想像(想定?)できるのではないでしょうか。

【SIMULIA 工藤】

バックナンバー

【デザインとシミュレーションを語る】第一回:イントロダクション 【デザインとシミュレーションを語る】第二回:シミュレーションの分類 【デザインとシミュレーションを語る】第三回:シミュレーションは実験と比べて何がいい? 【デザインとシミュレーションを語る】第四回:シミュレーションは緻密な統合技術 【デザインとシミュレーションを語る】第五回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(1) 【デザインとシミュレーションを語る】第六回:リアルとバーチャルの垣根をなくせたら?(2) 【デザインとシミュレーションを語る】第七回:3D-CADは何のため? 【デザインとシミュレーションを語る】第八回 : CAE を志す人へのメッセージ(1) 【デザインとシミュレーションを語る】第九回 : CAEを志す人へのメッセージ(2) 【デザインとシミュレーションを語る】第十回: ソフトウエア・ロボットの誕生 【デザインとシミュレーションを語る】第十一回: 作業を自動化すること、その真の価値とは 【デザインとシミュレーションを語る】第十二回: “自動化を進めると設計者が考えなくなる?"への回答 【デザインとシミュレーションを語る】第十三回 : パラメトリック性の本質は新しい組み合わせ 【デザインとシミュレーションを語る】第十四回 : Zero Design Cycle Timeの衝撃 【デザインとシミュレーションを語る】第十五回 : 「設計とは最適化」の奥深い意味を教えてくれた技術者 【デザインとシミュレーションを語る】第十六回 : スーパーコンピュータで行われていた大量の計算とは 【デザインとシミュレーションを語る】第十七回 : 最適設計支援ソフトウエアの衝撃的な登場 【デザインとシミュレーションを語る】第十八回 : サンプリングって、偵察のことです 【デザインとシミュレーションを語る】第十九回 :  設計空間でシミュレーションを考える 【デザインとシミュレーションを語る】第二十回 : 安易に使うと誤解を招く言葉“最適化 【デザインとシミュレーションを語る】第二十一回 : 世の中すべてはトレードオフ問題 【デザインとシミュレーションを語る】第二十二回 : Optimization、Trade-off、Synthesis 【デザインとシミュレーションを語る】第二十三回 : 最適解は失敗の学習結果 【デザインとシミュレーションを語る】第二十四回 : ”設計とは逆問題”のココロは?(1)-森を見る利点 【デザインとシミュレーションを語る】第二十五回 : ”設計とは逆問題”のココロは?(2)-解空間から設計空間を絞り込む 【デザインとシミュレーションを語る】第二十六回 : 100倍性能の高いコンピュータがあったら?―森と木の視点 【デザインとシミュレーションを語る】第二十七回 : シミュレーション(CAE) の精度向上という根本問題ーその1 【デザインとシミュレーションを語る】第二十八回 : シミュレーション(CAE) の精度向上という根本問題ーその2 【デザインとシミュレーションを語る】第二十九回 : ”歯車と棒”でわかるシミュレーションにおけるパラメータ同定 【デザインとシミュレーションを語る】第三十回 : 1D-CAEの価値とパラメータ同定 【デザインとシミュレーションを語る】第三十一回 : Fidelityという概念とModel Based Designの関係 【デザインとシミュレーションを語る】第三十二回 : 品質に求める最高と安定と安心と 【デザインとシミュレーションを語る】第三十三回 : 製品ライフサイクルで考える不確かさと定量化の方法 【デザインとシミュレーションを語る】第三十四回 : 製品ライフサイクルで考える不確かさと定量化の方法 【デザインとシミュレーションを語る】第三十五回 : シックスシグマの意味 【デザインとシミュレーションを語る】第三十六回 : ロバスト設計の価値と方法論 【デザインとシミュレーションを語る】第三十七回 : タグチメソッドとシックスシグマ手法の使い分け 【デザインとシミュレーションを語る】第三十八回 : Simplicityという製品哲学 【デザインとシミュレーションを語る】第三十九回 : ミケランジェロは機能美を理解していた! 【デザインとシミュレーションを語る】第四十回 : 設計者の感性とは美しい設計=機能美-「風立ちぬ」を観て 【デザインとシミュレーションを語る】第四十一回 : 自然と工芸、科学と工学 【デザインとシミュレーションを語る】第四十二回 : 仕事の美しさと最適設計の美しさ

読者登録はこちら

ブログの更新情報を毎月お届けします

読者登録

読者登録はこちら