建築・建設March 27, 2015

【建築・建設業界コンテンツ】5: 設計の複雑性緩和に取り組むDavid Gerber博士のキャリア構築の軌跡

現在、南カリフォルニア大学で建築、土木、環境工学の准教授を務めるDavid Gerber博士。その肩書きは、同氏が取り組む複数の専門分野をまたぐ研究目標と比べ、はるかにシンプルです。
header
Avatar ダッソー・システムズ株式会社
「Paradigms in Computing: Making, Machines, and Models for Design Agency in Architecture」David Jason Gerber 、Mariana Ibanez共著

現在、南カリフォルニア大学で建築、土木、環境工学の准教授を務めるDavid Gerber博士。その肩書きは、同氏が取り組む複数の専門分野をまたぐ研究目標と比べ、はるかにシンプルです。

エンジニアおよびコンピュータ科学者の息子であるGerber氏は、様々な国で(そして一時は帆船で)暮らした経験を持ち、同氏の作品には、技術的な特性とグローバルな視点の融合が見られます。設計アーキテクトとしての教育を受けたGerber氏は、Gehry Technologies社 や Zaha Hadid Architects社をはじめとする世界で最もイノベーティブな建築およびテクノロジー・ファームで勤務した経験があります。

その後は、教授や講師、作家、および複数のテクノロジー系のベンチャー企業の創設者も務めましたが、Gerber氏の作品には、建築、コンピュータによる設計、そしてテクノロジーの交差、という一貫したテーマが存在しています。

より優れた方法の模索

Gerber氏は、同氏のキャリアパスを決定付けたのは14年以上前のZaha Hadid Architects社での勤務時代に得た教訓であった、と述べています。

それは「設計者が、設計で可能な最高レベルの品質を確保すると同時に、現実世界の複雑性に対処するための、パラメトリックな能力、技術および知識を獲得するため」の軌跡であった、Gerber氏は語ります。

Gerber氏は新しい大規模なプロジェクトであるシンガポール・ワンノース地区のマスタープランのプロジェクトアーキテクト兼マネージャーに抜擢されました。その設計では、人口20万人の都市、延床面積500万平方メートル、土地面積200ヘクタールを超える30年のマスタープランが要求されました。

その当時、建築の世界ではパラメトリック設計という考えは存在しませんでした。しかし、これほどの複雑なプロジェクトにおいては、パラメトリック設計によるデータ連携が強く求められたのです。

Gerber氏は次のように振り返ります。「私は自ら作成する形状、それが一時間単位で変化するなかで、その形状にデータをリンクする必要がありました。しかし、その責務を果たすために適した管理ツールは一切ありませんでした。しかも、そのデータセットの量は膨大だったのです。」

最終的にGerber氏はこうした情報をリンクするためのプログラムを開発しました。しかし同氏は、プロジェクトを離れる際も「形状からデータ、およびデータから形状に対する双方向的な影響を損なうことなく、高度な設計を実現するための、より優れた方法が必要である」と考えていました。

パラメトリック設計の模索

シンガポールのマスタープランは、短いスケジュール、コスト制約、また様々な課題の中で、苦い教訓を得たプロジェクトとなりました。しかし、Gerber氏はそれでも、同氏がプロジェクトに取り組む中で開発したツール(同氏はそれを初のパラメトリック・アーバニズム・ツールと呼ぶ)は、スマートな設計の実現に向けた最初のステップとなる、と確信していました。

Gerber 氏はZaha Hadid Architects社を去った後、博士号取得に向け、ハーバード大学デザイン大学院に入学しました。そしてGerber氏のアドバイザーが教鞭をとる授業の中で、同氏は初めてCATIA®を知ることとなりました。

そのクラスはCATIAを使い建築を学ぶ最も初期の授業の一つであり、Gerber氏にとっては、同氏が同僚と共に建築で再現しようと試みていた技術が、すでに工学分野で存在していたことに気付かされる驚きの場となったのです。

Gerber氏は次のように述べています。「ここでは博士号を取得する研究のため4年間過ごすこととなり、その間に建築におけるパラメトリック設計に関する最初の論文の一つを執筆しました。」

Gerber氏にとっては、ハーバード大学での授業やリサーチフェローに選任されたMITのメディアラボでの仕事を通じて得たCATIAの初期の利用経験が、同氏の建築に関する知識をさらに発展させることとなるGehry Technologies社でのインターンシップの機会につながりました。

それ以来、Gerber氏は講義や授業、出版物を通じ、複雑性の高いプロジェクトを実現する「より優れた方法」に対する人々の理解を広める取り組みを進めています。

不確実な要素の排除

Gerber氏は、パラメトリック設計ツールおよび3D設計への転換は、設計者にとって、設計上の特性である不確実な要素の排除を促す上で極めて重要なものとなった、と考えています。

Gerber氏は次のように述べています。「設計者として、私たちは非常に大きな責任を担っています。なぜなら私たちのビジョンは100年から200年のライフスパン、そしてライフサイクルコストに関わるものだからです。」

このような期間を前提に、Gerber氏は、設計とは膨大な量の不確実な要素を内在するもの、と捉えています。そしてそれゆえ、「設計プロセスを強化するのは私たちの責務であり、よりインテリジェントな方法で設計を行わなければならないのです」と述べています。

継続的に発展させていくパラメトリックな設計システムは、建築・建設業界の細分化された専門領域をリンクさせるための重要なポイントの一つであり、それを正しく適用することにより、今日の様々なプロジェクトにおける複雑な目標を達成することが可能となります。

画像提供: David Gerber氏

 

もちろん、プロジェクトの専門知識を統合するこの新しいアプローチにも、さらなるイノベーションの余地があります。Gerber氏は、建築、工学、建設が交差する地点で生じている問題を、人間主義的な設計表現を強調すると共に、コンピュータ科学分野のイノベーションを統合して解決を図ることが、この世界における今日の主題であると説明します。

Gerber氏は「私の究極の目標は、建築家と設計者がその能力を強化するために、より精度の高い情報を提供すると共に、より精度の高いナレッジを捕捉することです」と述べています。

文:森脇 明夫 ダッソー・システムズ、建築・建設業界のグローバル・マーケティング責任者 革新的なリーン・コンストラクション・ソリューション・エクスペリエンスの立ち上げを主導、buildingSMARTのメンバー

読者登録はこちら

ブログの更新情報を毎月お届けします

読者登録

読者登録はこちら